原著
重症急性膵炎の病態生理に関する実験的研究―特に膵炎ショックにおける副腎の役割について―
田中 紀男
長崎大学第2外科(主任:土屋凉一教授)
急性膵炎ショック発現に及ぼす副腎の役割について実験的研究を行った.すなわち,ヒトの膵,後腹膜神経叢,副腎はたがいに隣接していることより,解剖学的にヒト膵臓に類似させるため,予めイヌの膵臓を左副腎領域に限局性に縫着固定し,膵炎発生による動脈血圧等の循環動態の変動と副腎Catecholamines分泌速度の変動,ならびに,IRI値と血糖値の変動を測定し,膵炎ショック発現の機序について検討した.
急性膵炎ショック発現には,膵滲出液の副腎への直接の波及が主役を演じており,予め副腎を摘出しておくとショック発現が遅延した.なお,後腹膜神経叢も独立して膵炎ショック発現に寄与した.急性膵炎ショック発現時には,副腎Catecholamines分泌速度は有意に増加するが,他の種々のショックと比較して増加の程度は低かった.ところが,動脈血圧低下時にadrenalineならびにnoradrenalineを経静脈的に投与しても回復は見られなかった.したがって,副腎Catecholamines分泌速度が遅いことが,重篤なショックに移行する原因とは考えられなかった.中心静脈血中IRI値と血糖値は同時に増加し,インシュリン・ショックとは異なる態度を示した.さらに,Catecholamines,血糖,IRIの相互制禦機構が見られなかった.以上より,副腎は急性膵炎ショックの悪循環の一翼を担い,膵滲出液の副腎への波及をブロックする事は,この悪循環を断つと推測された.
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