原著
肝硬変合併肝癌発生過程における肝および血漿cyclic AMPの変動
中本 実, 高橋 恒夫, 井出 哲也, 森永 泰良, 成瀬 勝, 三穂 乙実, 高橋 正人, 加藤 信夫, 長尾 房大, 高崎 さとし1)
東京慈恵会医科大学第2外科, 同 第1病理1)
生化学や分子生物学の進展は細胞の動的過程の多くが細胞表面膜によってcontrolされてきていることが次第に明らかになってきた.
そこで,細胞膜内に存在し,細胞の増植を調節するといわれるcyclic AMPの動態を,前癌状態という不明瞭な概念に少しでも段階的な理解の1因子として,ラットを使用した肝硬変合併肝癌発生過程において測定し,あわせて組織学的に光顕および電顕的な観察を行った.
肝硬変合併肝癌はinitiatorとして,0.06%p-dimethylaminoazobenzeneを基礎食に混ぜて摂取し,promotorとして,15%CCl4/mlを週2回皮下注して作製した.肝および血漿cyclic AMPと肝組織像を月1回の割で検討した.
肝および血漿cyclic AMPはfreqent transient appearanceがあり,それは肝切後1カ月,脂肪肝時および多発性の肝癌発生時期に一致して出現した.肝硬変完成時期には肝cyclic AMPは低下してきたが,肝癌発生時期では肝癌部では376 pmol/g・wet,非癌部では304 pmol/g・wetと肝癌部の方が高い傾向ではあったが有意の差は認められなかった.同じ肝硬変でも,肝硬変完成時期では低く,肝癌発生時期での肝硬変では高値を示すことは興味あることであり,このことは,癌部周辺の肝硬変組織は癌状態と同様,つまり前癌状態の性質を持ってくるのではないかと推察された.
索引用語
cyclic AMP, p-dimethylaminoazobenzene, 前癌状態, 肝硬変合併肝癌
日消外会誌 16: 1486-1493, 1983
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