咽頭・喉頭，甲状腺，副甲状腺切除を伴う頸部食道癌切除例に対する甲状腺ホルモン剤経直腸投与の1例

倉吉　和夫, 木村　修, 豊田　暢彦, 坂本　秀夫, 塩田　摂成, 米川　正夫, 星野　和義, 前田　迪郎, 貝原　信明

鳥取大学医学部第1外科

　頸部食道癌の外科的治療においては，他臓器合併切除を余儀なくされる場合が多い．甲状腺の合併切除を伴う症例に対しては甲状腺ホルモンを投与する必要があるが，甲状腺製剤は経口剤しか製薬化されていないため，術後早期の投与に難渋することがある．今回，私どもは甲状腺全摘を伴う食道癌切除例に対して，当院で作製した甲状腺製剤坐薬の投与を行い，血中甲状腺ホルモン濃度の低下を防止しえたと考えられる症例を経験した．
　症例は58歳男性で，下咽頭から頸部食道に至る10 cm長の食道癌が両側甲状腺後壁への直接浸潤を認めたため，甲状腺，副甲状腺の合併切除を伴う食道全摘術を施行した．術後，経口摂取不能の約3週間にわたり，甲状腺末ならびにT₄製剤坐薬の投与を行い，血中T₃，T₄の低下ならびにTSHの上昇を抑制することが可能であった．本投与方法は，経口摂取不能患者に対する甲状腺ホルモン投与法として有用と考えられる．

索引用語
cervical esophageal cancer, esophagectomy combined with thyroidectomy, transrectal administration of thyroid hormone

別刷請求先
木村　修　〒683　米子市西町36-1　鳥取大学医学部第1外科

受理年月日
1990年10月11日

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