肝外門脈閉塞および食道胃静脈瘤を伴った先天性アンチトロンビンIII欠乏症の1手術例

宮崎　知, 中尾　量保, 仲原　正明, 藤田　修弘, 前田　克昭, 浜路　政靖, 岸本　康朗, 荻野　信夫, 長谷川　順一, 米田　光宏, 川平　洋一, 数尾　展, 前田　晃, 中村　順一

大阪警察病院外科

　症例は41歳の男性．吐血にて当科入院．25歳時に腸間膜静脈血栓症のため腸切除術の既往あり．父親に下肢静脈瘤，弟に腸間膜静脈血栓症の既往がある．患者，姉，娘3人に血清アンチトロンビンIII（以下ATIII）抗原量，活性値の低下を認めた．内視鏡にて食道静脈瘤（Li，F1，CW，RC（－））および噴門部静脈瘤（Lg，F3，CW，RC（＋））を認めた．腹部血管造影で門脈本幹は完全閉塞し，cavernous transformationを呈する求肝性副血行路を認めた．先天性ATIII欠乏症に起因する肝外門脈閉塞症と診断した．硬化療法にて止血しえないため，摘脾，胃上部切除術を施行した．術前日より経口開始時までATIII製剤を連日静注しATIII活性値を100％以上に維持し，経口開始時より塩酸チクロピジンならびにワーファリンの投与にて良好な術後経過を示した．先天性ATIII欠乏症は常染色体優性の遺伝性疾患で，本邦では38家系が報告されている．本症の診断下に手術が施行された症例はわずか3例であり周術期の管理を検討した．

索引用語
congenital antithrombin III deficiency, cavernous transformation of portal vein, esophagogastric varices

別刷請求先
宮崎　知　〒543　大阪市天王寺区北山町10-31　大阪警察病院外科

受理年月日
1992年10月7日

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