腹腔動脈起始部の高度狭窄に対し腹部大動脈―総肝動脈バイパス術を先行併施した膵頭部癌1切除例

伊井　徹, 安居　利晃, 伊藤　博, 森　和弘, 鎌田　徹, 秋本　龍一, 素谷　宏, 神野　正博

恵寿総合病院外科・胃腸科

　今回，腹腔動脈起始部高度狭窄を伴った膵頭部癌の1手術例を経験した．症例は75歳の女性で，上腹部痛，背部症，黄疸を主訴に来院した．腹部CT，経皮経肝胆道造影，内視鏡的膵管造影より膵頭部癌と診断した．また，上腸間膜動脈造影では，膵十二指腸動脈の不整狭窄像とともに，そのアーケードを介し固有肝動脈と総肝動脈が造影され，腹腔動脈起始部は90％の非癌性狭窄を認めた．以上より，腹腔動脈高度狭窄を伴う膵頭部癌と診断し，自家静脈グラフトを用いた腹部大動脈―総肝動脈バイパス術施行後に膵頭十二指腸切除術（pancreaticoduodenectomy：PD）を施行した．術後経過は良好で術後80日目のグラフト造影では開存は良好であった．腹腔動脈非癌性狭窄を伴う膵頭十二指腸領域癌症例において，本血管手術手技は血行再建先行のため肝血流低下がなく，また，バイパス経路がPD手技の中心領域外のためPDの手技そのものや郭清にあまり影響を与えない利点があり，安全性と根治性を保持できる点で有用な手技と考える．

索引用語
celiac occlusive disease, pancreaticoduodenectomy, abdominal aorta-celiac bypass

別刷請求先
伊井　徹　〒920　金沢市宝町13-1　金沢大学医学部第2外科

受理年月日
1995年5月17日

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