特集
大腸癌の原発巣と転移巣における形質発現の差異と,間質との相互作用に関する検討
石上 俊一, 有井 滋樹, 原田 富嘉, 水本 雅己, 森 章, 花木 宏治, 武田 佳久, 小野寺 久, 今村 正之
京都大学第1外科
原発巣,転移巣あわせて74例の大腸癌における,VEGF(vascular endothelial growth factor),MMP(matrix metalloproteinase)-2,-9,MT1-MMP(membrane type matrix metalloproteinase)の発現の違いを,Northern hybridizationと免疫組織染色にて検討した.肝転移を有する原発巣でのこれら分子の遺伝子発現は,肝転移のない原発巣よりいずれも高かったが,肝転移巣における発現は原発巣より高いとは限らなかった.リンパ節転移を有する原発巣は,リンパ節転移のない原発巣に比べVEGFの発現が高く,リンパ節転移巣においては,原発巣に比べVEGFとMMP-9の発現が高かった.肝転移巣の免疫染色においては,VEGFやMMP-2の発現は,癌細胞でなく,むしろ隣接する肝細胞に認められた.以上の結果は,癌の形質発現が転移先の臓器の環境要因によって左右されること,そして転移という現象が,癌細胞と間質,あるいは肝細胞や炎症細胞との相互関係によって成立することを示唆しているものと考えられた.
索引用語
colorectal cancer, vascular endothelial growth factor, matrix metallo-proteinases
別刷請求先
石上 俊一 〒520-0046 大津市長等1-1-35 大津赤十字病院外科
受理年月日
1997年12月3日
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