原著
下部食道の逆流防止機能を温存した噴門側胃切除術後のquality of lifeに関する検討
辻 秀樹, 安藤 重満*, 三井 章
トヨタ記念病院外科, 若宮会菊池病院胃腸科*
はじめに:下部食道括約機能(lower esophageal sphincter:以下,LES機能)は陽圧下の腹部食道が陰圧下の縦隔内へ退縮することにより著しく低下する.噴門側胃切除(以下,噴切)後の逆流性食道炎を防止するために逆流防止機能を温存した付加手術を行い術後のquality of lifeを検討した.対象と方法:術後1年以上経過した噴切21例で胃上部の早期癌とMP癌でN0ならびにgastrointestinal stromal tumor(1例)を対象とした.再建術式は食道胃吻合術(esophagogastrostomy:以下,EG)15例,空腸嚢間置術(jejunal pouch interposition:以下,JPI)6例であった.食道・胃あるいは空腸嚢吻合部後壁を正中弓状靭帯に縫合固定して,術後腹部食道を陽圧下の腹腔内に保持することにより逆流防止機能の温存を図った.EG群15例中,胃の切除範囲が1/3以上になった1例と正中弓状靭帯固定不全により腹腔内食道が短くなった1例に逆流症状がみられた.JPI群6例に逆流症状はみられなかった.術中食道裂孔にクリップをかけて術後上部消化管造影検査にて計測した腹腔内食道の長さは1例を除いて1.0―3.0 cm,平均2.0 cmで,0.5 cmの1例(上記)に逆流症状がみられた.椎体を基準にして測定した術後の吻合部(circular staple)の高さは1例を除いて術前の食道胃接合部の高さとほぼ一致した.測定しえた5例の術前後のLES圧は24.8±6.6 mmHg/21.7±3.5 mmHgで有意の低下はみられなかった.体重変動はEG群92.0±5%,JPI群84.3±7%であった.考察:食道・胃または空腸嚢吻合部を正中弓状靭帯に固定する付加手術は術後の逆流性食道炎を防止できる簡便で有用な方法である.また,食道胃吻合術は胃の切除範囲が1/3以下のものに適応があると考えられた.
索引用語
proximal gastrectomy, gastroesophageal reflux, reflux esophagitis, gastric tumor
別刷請求先
辻 秀樹 〒471-8513 豊田市平和町1-1 トヨタ記念病院外科
受理年月日
2004年11月30日
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