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ご報告

日本消化器外科学会消化器外科データベース委員会2008年度調査報告

後藤満一1), 北川雄光1), 木村 理1), 島田光生1), 冨田尚裕1), 中越 享1), 馬場秀夫1), 杉原健一2), 大津 洋3)

消化器外科データベース委員会1), 理事長2), 東京大学大学院医学系研究科臨床試験データ管理学講座3)

はじめに

 2006年,本学会は「消化器外科専門医修練カリキュラムI(新)」(新手術難易度区分(2009年以降の審査申請から適用)を利用)の項目に準じた症例数とともに,その中で代表的な手術法における,消化器外科専門医(以下「専門医」という.)の関与の有無による術死,在院死,合併症の発生率の相違について調査した.調査期間は1か月で,回答率は43.7%で,33万例の症例が集積された.この調査結果は2007年末にネット上で公開した.2008年度は同様の調査を3か月の調査期間を設け実施し,回答率は62%,44万例を超える症例が集積された.本年度の調査結果を報告するとともに,前年度の調査内容との比較についても報告する.

調査内容

 本学会指定修練施設である大学病院,一般病院を含む認定施設769機関,関連施設1,591機関を対象に下記の調査項目について,web入力していただいた.
■調査項目
1. 施設に関する一般情報
(ア) 外科医師数(常勤)(平均常勤スタッフ数)
(イ) 過去に450例以上の経験(助手を含む)を有する者の数
(ウ) 前記(ア)のうち,消化器外科専門医資格を有する者の数
2. 消化器外科手術調査に掲げる術式
※2007年1月1日から同年12月31日までの1年間に当該施設で施行された数
※各術式名は,「専門医修練カリキュラムI(新)」に基づく(115術式)
※各術式における手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)
3. 主たる14術式
専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死),再手術数,主たる合併症併発数

調査回答結果

I) 回答率

 2,360施設中,1,464施設の回答を得た(回答率:62.0%).その内訳は,認定施設(大学病院)は131施設中107施設(81.7%),認定施設(一般病院)は638施設中485施設(76.0%),関連施設は1,591施設中872施設(54.8%)であった.

II)回答結果

1. 施設に関する一般情報
今回の調査では外科医師数9,225人(会員20,710人の約45%),専門医数2,562人(専門医4,144人の約62%)を含む施設からの回答が得られた.450例以上の手術経験者は6,432人で回答外科医師数の69%であった.
それぞれの医師数は認定施設(大学病院)2,008人,認定施設(一般病院)3,930人,関連施設3,285人で,外科医師数に対する450例以上の経験者の比率は,認定施設(大学病院)55%,認定施設(一般病院)69%,関連施設76%と関連施設で高く,その一方,専門医の比率では,認定施設(大学病院)30%,認定施設(一般病院)30%,関連施設22%と関連施設で低かった.平均外科医師の数はそれぞれ18.8,8.1,3.8人であった.


2. 消化器外科手術調査に掲げる術式に関して
2007年1月1日から同年12月31日までの1年間に当該施設で施行された術式別の総数は440,230例で,臓器別にみると食道6,476例(1.5%),胃・十二指腸61,103例(13.9%),小腸・結腸112,041例(25.5%),直腸36,872(8.4%),肛門21,409例(4.9%),肝16,742例(3.8%),胆74,314例(16.9%),膵9,354例(2.1%),脾1,767例(0.4%),その他100,152例(22.7%)となっている(表1).そのうち,術死は1,665例,在院死は2,384例で,両者を合わせた死亡総数は4,049例,死亡総数の比率は0.92%である.臓器別の死亡比率は3.63%から0.02%と異なる.
施設区分における手術総数は認定施設(一般病院)235,492例(53%),関連施設144,315例(33%),認定施設(大学病院)60,423例(14%)の順に多かったが,食道,肝,膵,脾などの臓器に関係した手術は関連施設で少なく,認定施設(一般病院)と認定施設(大学病院)で多く実施されていた(表2


115術式の症例数と死亡比率 (表3: 食道胃・十二指腸小腸・結腸直腸・肛門その他において,手術術式で1,000例以上の症例があり,死亡率が5%を超えるものは,急性汎発性腹膜炎手術(5.5%),胃腸吻合術(5.7%)であり,また,腸瘻造設・閉鎖術(4.2%),胃瘻造設(4.2%),試験開腹(4.2%),Hartmann手術(3.8%),小腸切除術(悪性)(3.6%),腸切開縫合術(3.0%)など,姑息的と考えられる手術も比較的に死亡率が高くなっている.さらに,昨年の調査で3%を超えるものとして,食道切除再建術(3.3%),肝切除術(3.0%),膵頭十二指腸切除術(3.0%)があげられたが,食道切除再建術は3.6%と3%を超えているが,肝切除は2.3%,膵頭十二指腸切除術は2.6%となった.1%以上のものとしては,胆管悪性腫瘍手術(2.9%),結腸部分切除術・S状結腸切除術(良性)(1.9%),胆嚢悪性腫瘍手術(1.2%),胃全摘術(1.2%)などがあげられる.


3. 主たる14術式に関して
専門医が術者,助手として手術に関与した場合と,手術に関与していない場合のそれぞれの手術例数,死亡数(術死,在院死),再手術数,主たる合併症併発数について調査し,リスク比(オッズ比)の推定をStatistical Analysis System(SAS)を用いて実施し,信頼区間とともに表記した.


a)主たる14術式における専門医の関与と死亡および合併症のリスク比の推定
各術式における全体の死亡数(術死,在院死),再手術数,主たる合併症併発数と各々の比率を示す(表4).上段に2007年の症例,下段に2006年の症例の発生率を記載している. 各術式において,専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの死亡率を図1に示す. 全体的に,専門医が助手として手術に関与した場合,関与しない場合に比べて,死亡率が減少する傾向がみられた.なかでもとくに,食道切除再建術では,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比べ,リスク比は0.564と低かった図2.また,結腸右半切除術では専門医が術者として関与した場合,あるいは助手として関与した場合は,関与しない場合に比べて,0.534,0.451とリスク比は低下した.また,胆嚢摘出術では専門医が術者として関与した場合は関与しない場合に比べて,リスク比は2.07と高かった.正確な解釈には疾患の内容,術前リスクなどの調整が必要である.
次に,有害事象の発生に関する専門医の手術への関与の違いについて,リスク比を検討した結果,信頼区間が1以下,あるいは1以上となった術式は,食道切除再建術,胃縫合術,胃切除術,胃全摘術,結腸右半切除術,高位前方切除術,低位前方切除術,胆嚢摘出術,腹部ヘルニア・鼠径ヘルニア手術,急性汎発性腹膜炎手術であった図3.各術式における専門医の関与と術後合併症のリスク比をみると,食道切除再建術では,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比べて,吻合不全のリスクは0.723と低く,また,助手として関与した場合は術者として関与した場合に比べて,リスクは1.463と高かった.同様の傾向は胃切除,あるいは胃全摘術でみられた.また,胆嚢摘出術における術後出血にも同様の傾向がみられた.その他,各術式の各合併症のリスク比については詳しくは図3を参照されたい.

b)主たる14術式におけるhospital volumeと術後死亡リスク比の推定
それぞれの術式において,症例数により4つのカテゴリに区分した.各カテゴリーの症例数が大きく異ならないように便宜的にカテゴリーの症例数を規定した.多くの術式で,症例数が多くなると,死亡率が低下する傾向が見られた図4a.カテゴリ間の比較で少なくとも一つ以上,リスク比に有意差のみられた術式は食道切除再建術,胃切除,胃全摘術,結腸右半切除術,腸閉塞手術,低位前方切除術,肝切除,胆嚢摘出術,膵頭十二指腸切除術,腹壁腹部ヘルニア・鼠径ヘルニア手術,急性汎発性腹膜炎手術であった図4b.一方,胃縫合術,高位前方切除術,肝外側区域切除では有意差はみられなかった.有意差のある術式においては,症例数の少ないカテゴリ1に区分されるものは他のカテゴリに区分されるものに比べて相対的にリスク比が高い傾向がみられた.

c)2007年度,2008年度の調査結果の比較
回答率は前年度に比べて,関連施設では35.9%から54.8%に上昇した.また,認定施設では59.7%から77.0%と上昇した.症例数は333,627例から440,230例と32%上昇した.2006年の術死,在院死,死亡合計の実施症例数の比率は,それぞれ0.35,0.60,0.95%であった.2007年では0.38,0.54,0.92%と,ほぼ近似した値を示した.また,両年度の115術式の比較でも,高い相関がみられ,再現性のある結果と思われる.
両年の14術式における専門医の関与とリスク比を比較したところ,両年通じて術後死亡リスク比に有意差が認められたのは食道切除再建術であった.また,術後合併症のリスク比においては多くの術式でほぼ同様の傾向がみられたが,有意差が両年にわたり認められたのは,食道切除再建術の吻合不全,肺合併症,胃切除の吻合不全,胆嚢摘出術などの出血などであった.本年はhospital volumeと術後死亡リスク比の推定結果についても言及した.症例数が多いところではリスク比が低下する術式がみられたが,これらの成績を米国での1994年~1999年の約2百50万例の集積結果(図5:Birkmeyer JD et al. N Engl J Med 346:1128, 2002)と比較すると,わが国の手術成績は非常に良好なことがうかがえる.例えば,最も症例数の多い米国の施設区分の死亡率と,最も症例数の少ないわが国の施設区分を各術式で比較してみると,食道切除再建術で8.1%(19例以上) vs 5.6%(5例以下),胃切除で8.6%(21例以上)vs 1.5%(胃全摘(5例以下)),大腸切除で4.5%(124例以上)vs 0.65% (低位前方切除(5例以下)),膵切除3.8%(16例以上) vs 3.0%で3.8%(膵頭十二指腸切除術(5例以下))となっている.調査年度が異なること,術式が全く同一ではないこと,年齢を含めた患者背景などが異なり,術前リスクに差が想定されることから単純な比較はできないが,少なくとも,わが国の現在の消化器外科手術の死亡率は米国の当時のものと比較し明らかに低いことが示された.

おわりに

 本邦の消化器外科手術における死亡割合は,全体で0.92%とかなり低い状況である.今年度は直腸と肛門を別個の臓器として集計したため,疾患臓器別にみると0.02%~3.63%と幅があるが,専門医修練カリキュラムI(新)に基づく(115術式)各術式における手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)と死亡率は,前年度と非常に近似した結果が得られ,わが国の消化器外科手術は世界的にみて,毎年,高水準に実施されていることが明らかになった.また,主たる14術式において,専門医が術者,助手として手術に関与する場合と,手術に関与していない場合において,死亡あるいは合併症の発生リスク比に差のある術式が,両年にわたり継続してみられたことから,専門医の関与の仕方が,手術成績に影響をもつことが推定された.これらの傾向はhospital volumeを加えた解析においても同様にみられた.これらの調査結果は,消化器外科領域における専門医の位置づけ,研修のあり方,専門医資格と医療需給のバランスを検討するための資料となるとともに,国民への消化器外科手術に関する貴重な情報開示となる.
一方,各症例の年齢,併存疾患,詳細な手術内容などの手術リスクは個々の症例で大きく異なっていることが想定され,この調査結果のみで単純に施設間の手術成績を比較することはできないのも事実である.今後,さらなる消化器外科医療の質の向上のためには,risk-adjusted surgical outcomeが評価可能なデータベースの構築が必要となるが,医療現場の入力負担を軽減した適確な情報収集が可能なシステムづくりが望まれる.日本消化器外科学会消化器外科データベース委員会ではこのことを鑑み,平成21年度厚生労働科学研究費補助金を得て,データベースの構築に着手することになった.この研究の進捗状況は随時,学術集会などで報告していくが,皆様のご協力,ご支援をお願いしたい.最後に膨大なデータを入力していただいた会員の皆様に深謝いたします.