一般社団法人 日本消化器外科学会

RSS
公式FACEBOOK
YOUTUBEチャンネル
お知らせ
| News
Home  »   お知らせ   »   ご報告   »   日本消化器外科学会データベース委員会2009年度調査報告
Last Update:2011年3月30日

ご報告

日本消化器外科学会データベース委員会2009年度調査報告

後藤満一1),北川雄光1),木村 理1),島田光生1),冨田尚裕1),中越 享1),馬場秀夫1),杉原健一2),大津 洋3)

データベース委員会1),理事長2),東京大学大学院医学系研究科臨床試験データ管理学講座3)

 

はじめに

 2006年,本学会は「消化器外科専門医修練カリキュラム」(新手術難易度区分(2009年以降の審査申請から適用)を利用)の項目に準じた症例数とともに,その中で代表的な手術法における,消化器外科専門医(以下「専門医」という.)の関与の有無による術死,在院死,合併症の発生率の相違について調査した.同様の調査を2007年にも実施し,それぞれ2007年度,2008年度調査報告としてネット上で公開した.2009年度は2008年の症例について,これまでの調査内容に加え,主な術式に関しては内視鏡手術の有無についても調査した.回答率は68%,41万例を超える症例が集積された.本年度の調査結果とともに,これまでの調査結果を比較し,報告する.

 

調査内容

 本学会指定修練施設である大学病院,一般病院を含む認定施設765機関,関連施設1,405機関を対象に下記の調査項目について,web入力していただいた.

調査項目

1.施設に関する一般情報
(ア)外科医師数(常勤)(平均常勤スタッフ数)
(イ)過去に450例以上の経験(助手を含む)を有する者の数
(ウ)前記(ア)のうち,消化器外科専門医資格を有する者の数

2.消化器外科手術調査に掲げる術式
※2008年1月1日から同年12月31日までの1年間に当該施設で施行された数
※各術式名は,「専門医修練カリキュラム」に基づく(115術式)
※各術式における手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)

 115術式のうち以下31術式においては内視鏡手術の有無についても区分して調査した.
食道噴門形成術,アカラシア手術,食道切除再建術,胃縫合術(胃破裂に対する胃縫合,胃・十二指腸穿孔に対する縫合閉鎖術,大網充填術,大網被覆術を含む),胃局所切除術(楔状切除を含む),胃切除術(幽門側胃切除術,幽門保存胃切除術,分節(横断)胃切除術を含む),胃全摘術(噴門側胃切除を含む),小腸部分切除術(良性),小腸切除術(悪性),回盲部切除術(悪性),結腸部分切除術・S状結腸切除術(悪性),結腸右半切除術,結腸左半切除術,結腸全摘除術,腸閉塞手術(腸管切除を伴う),大腸全摘回腸肛門(管)吻合術,直腸切断術(良性),高位前方切除術,Hartmann手術,直腸切断術(悪性),低位前方切除術,肝嚢胞切開・縫縮・内瘻術,肝部分切除術,肝凝固壊死療法術(経皮的手技を除く),胆嚢摘出術,胆管切開切石術,膵体尾部切除術(良性),脾摘術,腹部ヘルニア・鼠径ヘルニア手術,食道裂孔ヘルニア手術,消化管穿孔部閉鎖術

3.主たる14術式
 専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死),再手術数,主たる合併症併発数

 

調査回答結果

I)回答率

 2,170施設中,1,466施設の回答を得た(回答率:67.6%).その内訳は,認定施設(大学病院)は120施設中118施設(98.3%),認定施設(一般病院)は645施設中527施設(81.7%),関連施設は1,405施設中821施設(58.4%)であった.

II)回答結果

1.施設に関する一般情報
 今回の調査では外科医師数9,898人(会員20,894人の約47%),専門医数3,017人(専門医4,539人の約67%)を含む施設からの回答が得られた.450例以上の手術経験者は6,899人で回答外科医師数の70%であった.
それぞれの医師数は認定施設(大学病院)2,431人,認定施設(一般病院)4,419人,関連施設3,048人で,外科医師数に対する450例以上の経験者の比率は,認定施設(大学病院)67%,認定施設(一般病院)66%,関連施設77%と関連施設で高く,その一方,専門医の比率では,認定施設(大学病院)35%,認定施設(一般病院)32%,関連施設24%と関連施設で低かった.平均外科医師の数はそれぞれ20.6,8.4,3.7人であった.

2.消化器外科手術調査に掲げる術式に関して
 2008年1月1日から同年12月31日までの1年間に当該施設で施行された術式別の総数は417,786例で,臓器別にみると食道6,338例(1.5%),胃・十二指腸57,983例(13.9%),小腸・結腸106,907例(25.6%),直腸34,467(8.2%),肛門17,687例(4.2%),肝16,802例(4.0%),胆73,269例(17.5%),膵9,400例(2.2%),脾1,816例(0.4%),その他93,117例(22.3%)となっている(表1).そのうち,術死は1,513例,在院死は2,243例で,両者を合わせた死亡総数は3,756例,死亡総数の比率は0.90%である.臓器別の死亡比率は3.09%から0.01%と異なる.

 施設区分における手術総数は認定施設(一般病院)230,036例(55%),関連施設125,491
例(30%),認定施設(大学病院)62,259例(15%)の順に多かったが,食道,肝,膵,脾などの臓器に関係した手術は関連施設で少なく,認定施設(一般病院)と認定施設(大学病院)で多く実施されていた(表2).

 115術式の症例数と死亡比率 (表3: 食道胃・十二指腸小腸・結腸直腸・肛門その他) において,手術術式で1,000例以上の症例があり,死亡率が5%を超えるものは,急性汎発性腹膜炎手術(5.8%),胃腸吻合術(5.4%)であり,また,胃瘻造設術(4.6%),試験開腹術(4.6%),腸瘻造設・閉鎖術(3.7%),Hartmann手術(3.3%),さらに小腸部分切除術(良性)(2.7%),胃縫合術(2.6%),結腸部分切除術・S状結腸切除術(良性)(2.6%),腸閉塞手術(2.4%),消化管穿孔部閉鎖術(2.4%)など,消化管穿孔や姑息的と考えられる手術も比較的,死亡率が高くなっている.2007年度の調査で待機手術が多くしめると考えられる術式で3%を超えたものは,食道切除再建術(3.3%),肝切除術(3.0%),膵頭十二指腸切除術(3.0%)があげられたが,今年度の調査では,食道切除再建術は2.95%,肝切除術は2.3%,膵頭十二指腸切除術は2.1%と低下傾向がみられた.その他1%以上のものとしては,胆管悪性腫瘍手術(2.2%),胆嚢悪性腫瘍手術(1.5%),胃全摘術(1.3%)などがあげられる.

 今年度は,31術式については内視鏡手術の手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)についても調査した(表4:31術式における内視鏡手術の症例数と死亡率). 31術式において内視鏡症例の全症例に対する比率を施設区分別に比較すると,胆嚢摘出術は大学病院,一般病院,関連施設いずれも76%以上で,施設区分による差はないが,他の術式においては程度の差はあるものの,大学病院,一般病院,関連施設の順に内視鏡手術の実施率は高かった(図1).

3.主たる14術式に関して
 専門医が術者,助手として手術に関与した場合と,手術に関与していない場合のそれぞれの手術例数,死亡数(術死,在院死),再手術数,主たる合併症併発数について調査し,リスク比(オッズ比)の推定をStatistical Analysis System(SAS)を用いて実施し,信頼区間とともに表記した.

a)主たる14術式における専門医の関与と死亡および合併症のリスク比の推定
 各術式における全体の死亡数(術死,在院死),再手術数,主たる合併症併発数と各々の比率を示す(表5).最上段に2008年の症例,中段に2007年の症例,下段に2006年の症例の発生率を記載している.

 各術式において,専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの死亡率を図2に示す.多くの術式で,専門医が助手,または術者として手術に関与した場合,関与しない場合に比べて,死亡率が減少する傾向がみられた.胃全摘術,膵頭十二指腸切除術では術者として関与した場合は,関与しない場合に比べて, リスク比は各々0.612,0.550と低下した.また,胃縫合術と胃全摘術では助手として関与した場合は,関与しない場合に比べて,リスク比は各々0.614,0.696と低下した.前年度の調査において,食道切除再建術や結腸右半切除術でみられた「専門医が術者として関与した場合は,関与しない場合に比べて,リスク比が低下する」という傾向は,今回みられなかった.正確な解釈には疾患の内容,術前リスクなどの調整が必要である.
 次に,有害事象の発生に関する専門医の手術への関与の違いについて,リスク比を検討した結果,一つ以上の合併症で,信頼区間が1以下,あるいは1以上となった術式は,胃縫合術以外のすべての術式であった(図3).各術式における専門医の関与と術後合併症の一つである吻合不全についてみると,胃切除術,胃全摘術,高位前方切除術,膵頭十二指腸切除術では,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比べて, リスク比は各々0.615,0.789,0.665,0.750と低くなっていた.その他,各術式の合併症のリスク比については詳しくは図4を参照されたい.

b)主たる14術式におけるhospital volumeと術後死亡リスク比の推定
 それぞれの術式において,症例数により4つのカテゴリに区分した.各カテゴリの症例数が大きく異ならないように便宜的にカテゴリの症例数を規定した.多くの術式で,症例数が多くなると,死亡率が低下する傾向が見られた.カテゴリ間の比較で少なくとも一つ以上,リスク比に有意差のみられた術式は食道切除再建術,胃縫合術,胃切除術,胃全摘術,低位前方切除術,肝切除術,膵頭十二指腸切除術,急性汎発性腹膜炎手術であった.有意差のある術式においては,症例数の少ないカテゴリ1に区分されるものは他のカテゴリに区分されるものに比べて相対的にリスク比が高い傾向がみられた.

4.2007年度,2008年度,2009年度の各年度の調査結果のまとめ
 回答率は,関連施設では35.9%,54.8%,58.0%に,認定施設では59.7%,77.0%,84.0%に上昇した.2009年度は大学病院では,98.3%(118/120施設)となった.症例数は333,627例,440,230例,417,786例となった.術死,在院死,死亡合計の実施症例数の比率は,2007年度0.35,0.60,0.95%,2008年度0.38,0.54,0.92%,2009年度0.36,0.54,0.90%であり,ほぼ近似した値を示した.また,各年度の115術式の比較でも,高い相関がみられ,再現性の高い結果と思われた.

 専門医の関与と各術式における死亡のリスク比において,過去2年の調査では,食道切除再建術において,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比べ,リスク比は低かったが,今年度の調査では有意差はみられず,3年間の調査を通して,有意差がみられたもられたものはなかった.一方,合併症においては,3年継続してリスク比に有意差のみられたものは食道切除再建術の吻合不全で,専門医が助手の場合は,術者の場合よりもリスク比が高かった(以下2006年,2007年,2008年症例;1.49,1.46,1.31).また,胃切除における吻合不全(1.36,1.68,1.22),低位前方切除のSSIの合併(1.41,1.39,1.52)においても同様の傾向がみられた.腹膜炎のSSIに関しては,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比べリスク比は,1.51,1.26,1.27と高く,専門医が助手の場合,手術に関与しない場合に比べリスク比は1.23,1.18,1.10と高かった.
 昨年,hospital volume hospital volumeと術後死亡リスク比の推定結果についても言及し,多くの術式で,症例数が多くなると,死亡率が低下する傾向が見られたが,本年も同様で,カテゴリ間の比較で少なくとも一つ以上,両年にわたり有意差のみられたものは,食道切除再建術,胃切除術,胃全摘術,低位前方切除術,肝切除術,膵頭十二指腸切除術,急性汎発性腹膜炎の手術であった.

 

おわりに

 本邦の消化器外科手術における2006,2007年,2008年の症例を2007,2008,2009年度として調査し報告した.回答率は徐々に上昇し,最終年は68%に達した.死亡割合は,0.95,0.92,0.90%とかなり低い状況で維持されている.専門医修練カリキュラムに基づく(115術式)各術式における手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)と死亡率は,各年非常に近似した結果が得られ,わが国の消化器外科手術は世界的にみて,毎年,高水準に実施されていることが明らかになった.また,主たる14術式において,専門医が術者,助手として手術に関与する場合と,手術に関与していない場合において,死亡あるいは合併症の発生リスク比に差のある術式が,3年にわたり継続してみられたことから,専門医の関与の仕方が,手術成績に影響をもつことが推定された.これらの傾向はhospital volumeを加えた解析においても同様にみられた.これらの調査結果は,消化器外科領域における専門医の位置づけ,市民への消化器外科手術に関する貴重な情報開示となる.
 一方,各症例の年齢,併存疾患,詳細な手術内容などの手術リスクは個々の症例で大きく異なっていることが想定され,この調査結果のみで単純に施設間の手術成績を比較することはできないのも事実である.2010年4月,日本外科学会とそのサブスペシャルティの8学会が協働して,手術症例を中心とした臨床データベース(National Clinical Database (NCD) 外部サイトへリンク)を設置することになり,2011年1月より入力が予定されている.このデータベースは,それぞれの学会が設置する専門医制度と密接に連携し,専門医制度の申請・更新に必要な手術実績を提供しつつ,各領域の医療水準評価やさまざまな臨床研究支援も行える構造をもつ.その中で,日本消化器外科学会では,さらなる消化器外科医療の質の向上をめざし,risk-adjusted surgical outcomeが評価可能なデータベースを構築した.入力項目は消化器外科の主たる8術式(「食道切除再建術」(「食道再建術再建のみ(胃管再建)」,「食道再建術再建のみ(結腸再建)」を含む),「胃全摘術」,「胃切除術(幽門側)」,「結腸右半切除術」,「低位前方切除術」,「肝切除(外側区域以外の区域)」(「肝移植術」を含む),「膵頭十二指腸切除術」,「急性汎発性腹膜炎手術」)においては,米国外科学会のNational Surgical Quality Improvement Program 外部サイトへリンクに準じたもので,詳細入力項目を含めた計約110項目(医療水準評価対象術式入力項目),「主たる8術式」以外では31~36項目(消化器外科共通基本項目)となっている.
 我々が進めてきたこの医療の水準を維持し,さらに向上させるには,確固たる指標のもとに専門医制度を含めた教育システムが構築・運営されなければならない.医療の透明性とそれぞれのベンチマークを通して,さらなる向上が可能になる.この作業によって,我々自身とともに一般市民が安心して質の高い外科医療を享受できることになる.この事業がさらなる日本の医療の向上とともに,医師の適正配置と外科医のプライドの向上に繋がることを鑑み,皆様のご支援をお願いするとともに,最後に,これまで膨大なデータを入力していただいた会員の皆様に深謝いたします.  

 

このページの先頭へ