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Last Update:2007年12月28日

ご報告

日本消化器外科学会消化器外科データベース委員会2007年度調査報告

後藤 満一1), 北川 雄光1), 木村  理1), 島田 光生1), 冨田 尚裕1), 中越  享1), 馬場 秀夫1), 川崎 誠治2), 平田 公一3), 上西 紀夫4), 北野 正剛5), 大津  洋6)

消化器外科データベース委員会1), 医療安全検討委員会2), 専門医制度委員会3), 第62回定期学術総会会長4), 理事長5), 東京大学大学院医学系研究科臨床試験データ管理学講座6)

はじめに

 2006年,新理事長制移行時に新たに消化器外科データベース委員会が発足した.これは,どのような手術がどのような場所でどのように行われているかを調査し,学会としての独自のデータを持つべきであるとのこれまでの理事会の意向に従ったものである.「もの言う学会」としての自分たちの手術に関するデータを蓄積・解析し,更なる発展につなげるのみならず,国民への情報開示,さらに専門医資格と医療需給のバランスを検討していく貴重な資料とするための調査である.今回は「消化器外科専門医修練カリキュラム(新)」(新手術難易度区分(2009年以降の審査申請から適用)を利用)の項目に準じた症例数とともに,その中で代表的な手術法における,専門医の関与の有無による術死,在院死,合併症の発生率の相違について調査した結果について報告する.

調査内容

 本会指定修練施設である大学病院,一般病院を含む認定施設777機関,関連施設1,600機関を対象に下記の調査項目について,web入力していただいた.
■調査項目
1. 施設に関する一般情報
(ア) 外科医師数(常勤)(平均常勤スタッフ数)
(イ) 過去に450例以上の経験(助手を含む)を有する者の数
(ウ) 前記(ア)のうち,消化器外科専門医資格を有する者の数
2. 消化器外科手術調査に掲げる術式
※2006年1月1日から12月31日までの1年間に当該施設で施行された数
※各術式名は,「専門医修練カリキュラムI(新)」に基づく(115術式)
※各術式における手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)
3. 主たる14術式
専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死),再手術数,主たる合併症併発数

調査回答結果

I) 回答率
2,377施設中,1,039施設の回答を得た(回答率:43.7%).その内訳は,認定施設(大学病院)は141施設中97施設(68.8%),認定施設(一般病院)は636施設中367施設(57.7%),関連施設は1,600施設中575施設(35.9%)であった.

II)回答結果
1. 施設に関する一般情報
今回の調査では外科医師数7,003人(会員20,653人の約35%),専門医数1,835人(専門医3,650人の約50%)を含む施設からの回答が得られた.450例以上の手術経験者は4,667人で回答外科医師数の67%であった.
それぞれの医師数は認定施設(大学病院)1,797人,認定施設(一般病院)2,980人,関連施設2,226人で,外科医師数に対する450例以上の経験者の比率は,認定施設(大学病院)57%,認定施設(一般病院)68%,関連施設73%と関連施設で高く,その一方,専門医の比率では,認定施設(大学病院)29%,認定施設(一般病院)28%,関連施設21%と関連施設で低かった.平均外科医師の数はそれぞれ18.5,8.1,3.9人であった.
2. 消化器外科手術調査に掲げる術式に関して
2006年1月1日から12月31日までの1年間に当該施設で施行された術式別の総数は333,627例で,臓器別にみると食道5,027例(1.5%),胃・十二指腸48,688例(14.6%),小腸・結腸80,770例(24.2%),直腸・肛門47,445例(14.2%),肝13,863例(4.2%),胆58,546例(17.5%),膵7,183例(2.2%),脾1,746例(0.5%),その他70,359例(21.1%)となっている(表1).そのうち,術死は1,165例,在院死は2,007例で,両者を合わせた死亡総数は3,172例,死亡総数の比率は0.95%である.臓器別の死亡比率は3.72%から0.26%と異なる.
施設区分における手術総数は認定施設(一般病院)181,729例(54.5%),関連施設102,108例(30.6%),認定施設(大学病院)49,880例(14.9%)の順に多かったが,食道,肝,膵,脾などの臓器に関係した手術は関連施設で少なく,認定施設(一般病院)と認定施設(大学病院)で多く実施されていた(表2
115術式の症例数と死亡比率 (表3: 食道胃・十二指腸小腸・結腸直腸・肛門その他において,手術術式で1,000例以上の症例があり,死亡率が5%を超えるものは,急性汎発性腹膜炎手術(6.4%),試験開腹術(5.6%),胃腸吻合術(5.4%)であり,また,Hartmann手術(4.3%),腸瘻造設・閉鎖術(4.0%)などの姑息的と考えられる手術も比較的に死亡率が高くなっている.さらに,3%を超えるものとして,食道切除再建術(3.3%),肝切除術(3.0%),膵頭十二指腸切除術(3.0%),1%以上のものとしては,胆嚢悪性腫瘍手術(1.6%),胃全摘術(1.4%),結腸右半切除術,結腸左半切除術,膵体尾部切除術(悪性)(1.0%)があげられる.
3. 主たる14術式に関して
専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの手術例数,死亡数(術死,在院死),再手術数,主たる合併症併発数について調査し,リスク比(オッズ比)の推定をSASを用いて実施し,信頼区間とともに表記した.
各術式における全体の死亡数(術死,在院死),再手術数,主たる合併症併発数と各々の比率を示す(表4).各術式において,専門医が術者,助手,手術に関与していない場合のそれぞれの死亡率を図1に示す.全体的に,専門医が助手として手術に関与した場合,関与しない場合に比べて,死亡率が減少する傾向がみられた (図2).なかでもとくに,食道切除再建術では,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比べ,リスク比は0.638と低かった.また,腸閉塞手術では専門医が助手として関与した場合,手術に関与しないあるいは術者となった場合に比して,リスク比は0.42と低かった(図2)
次に,有害事象の発生に関する専門医の手術への関与の違いについて,リスク比を検討した結果,信頼区間が1以下,あるいは1以上となった術式は,食道切除再建術,胃切除術,腸閉塞手術,高位前方切除術,低位前方切除術,肝切除術,胆嚢摘出術,膵頭十二指腸切除術,急性汎発性腹膜炎手術であった(図3).例えば,食道切除再建術では,専門医が術者の場合,手術に関与しない場合に比して,再手術のリスク比は低かった.また,吻合不全のリスク比では,専門医が術者の場合は専門医が関与しない場合に比べて低く,一方,専門医が助手の場合は術者の場合に比べて高かった.同様の傾向は,胃切除術,膵頭十二指腸切除術でみられた.その他,各術式の各合併症のリスク比については詳しくは図を参照されたい.



 

おわりに

 本邦の外科手術における死亡割合は,全体で0.95%とかなり低い状況である.さらに,疾患臓器別にみても0.26%~3.72%と幅があることが今回の調査で明らかになった.ただし,これらの結果は1か月という短期間におこなった調査で,回答率も低いことから,最終的な判断を下せるものではないことをご承知いただきたい.専門医修練カリキュラムI(新)に基づく(115術式)各術式における手術例数,死亡数(術死),死亡数(在院死)と死亡率が明らかになった.医療の現場でIC取得時,あるいは各施設の目標設定に利用していただければと思う.また,医療安全の点からもこの結果が利用されることを望む.一方,主たる14術式において,専門医が術者,助手,手術に関与していない場合において,死亡あるいは合併症の発生リスク比に差のある術式がみられたが,各症例の併存症,年齢,手術内容などを含めたリスクを揃えた調査ではないことから,その解釈は慎重でなければならない.今後,これらの調査結果をもとに,専門医の位置づけ,消化器外科研修のあり方,医療システムのあり方などについても学会として検討していく必要があろう.最後に短期間に膨大なデータを入力していただいた会員の皆様,リスク比の推定などの統計解析を行っていただいた東京大学の大津 洋先生に深謝いたします.

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