症例報告
胃癌根治術後に生じた難治性乳糜腹水症の1例
遠藤 正人, 丸山 圭一, 木下 平, 笹子 三津留
国立がんセンター中央病院外科
今回我々は胃癌の拡大リンパ節郭清による腹腔動脈および上腸間膜動脈周囲のリンパ路の遮断のために,大量の乳糜腹水をきたした1症例を経験した.症例は51歳の女性で,前庭部Borrmann 3型胃癌の診断で当院に紹介され,幽門側胃切除R2+11,12,13,14,16番郭清を施行した.術後,腹水貯留による腹部膨満が出現し,腹水は乳白色混濁液で,Sudan III染色で脂肪滴を確認し,乳糜腹水症と診断した.術後,62日間保存的治療を施行したが改善せずリンパ管の損傷に伴う乳糜腹水症と考え再手術を施行した.しかし脂肪乳剤,メチレンブルーおよび微粒子活性炭(CH40)でも破綻部を認めず,造影剤は腸間膜根部方向に流れる通常の移動をせず,逆に間膜全体に拡散していった. これらの所見から,本症例は「うっ滞性乳糜腹水」と診断した.上腸間膜動脈根部周囲における徹底的なリンパ節郭清のためにおこった「うっ滞性の乳糜腹水」の報告はこれまでの文献検索では報告されておらず極めてまれな症例と考えられた.
索引用語
postoperative chylous ascites, gastric cancer, lymphnode dissection
別刷請求先
遠藤 正人 〒260 千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1 千葉大学医学部第2外科
受理年月日
1993年12月8日
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