
■開催概要
日時:2025年5月10日(土)14時~16時
会場:順天堂大学 小川講堂
参加者数:97名
■講座開催の背景と趣旨
消化器外科医の減少は、医療現場の持続可能性を揺るがす深刻な課題となっています。
本市民公開講座では、医師の働き方や待遇、キャリア形成の現実を社会と共有し、課題解決に向けた理解と協力を広く呼びかけました。
■プログラム概要と主な内容
【第一部】講演セッション(司会:竹内 裕也 先生、齋浦 明夫 先生)
1. 消化器外科医の仕事、これまで
講演者:調 憲 先生(群馬大学 総合外科学講座/日本消化器外科学会 理事長)
内容:消化器外科医の仕事と現状、本市民公開講座の趣旨、消化器外科医の減少に際して学会で進めている取り組みについて紹介しました。
2. 消化器外科学会のアンケート結果から
講演者:黒田 慎太郎 先生(広島大学大学院 医系科学研究科 移植・消化器外科学)
内容:消化器外科医の労働時間・当直回数・報酬などの実態を紹介しました。「自分の子に外科医を勧めたいか」という設問に肯定した割合がわずか14%という厳しい現状を報告しました。
3. 働き方改革は医療の世界にも~消化器外科を未来につなぐ制度のはなし~
講演者:藤川 葵 先生(久留米大学)
内容:医療の世界にも広がる「働き方改革」について、消化器外科の現場での変化や今後の展望を紹介しました。
4. 若手外科医の働き方のリアル~現状と必要な支援~
女性の視点から:阪田 麻裕 先生(浜松医科大学 外科学第二講座)
内容:出産・育児の経験を経て、仕事と家庭の両立の現実について共有しました。
男性の視点から:今村 一歩 先生(長崎大学病院 肝胆膵・移植外科)
内容:育児休業取得の経験や、申請時の制度的障壁、制度周知の重要性を紹介しました。
5. 勤務体制改善の取り組み ~24時間365日、働けますか?~
講演者:藤井 努 先生(富山大学 消化器・腫瘍・総合外科)
内容:「24時間365日働くことが当たり前だった」時代からの転換。シフト制・当番制・チーム制の導入とその成果を紹介しました。
6. 待遇改善の取り組み ~過酷な現場に見合う評価と支援のために~
講演者:大段 秀樹 先生(広島大学大学院 医系科学研究科 移植・消化器外科学)
内容:日本の診療報酬制度は、手術の難易度や実施時間にかかわらず一律の定額評価となっており、ドイツや米国のような柔軟な評価制度とは大きく異なることを紹介しました。
夜間・休日手術への加算や若手外科医の処遇改善など、地域外科医療を支えるための具体的な取り組みを示しました。
7. 国民の皆様にご理解いただきたいこと
講演者:比企 直樹 先生(北里大学医学部 上部消化管外科学)
内容:消化器外科医育成に長い年月が必要であること、高難度手術の集約化が患者にとっても有益であることを紹介しました。
まとめ(司会の齋浦 明夫 先生、竹内 裕也 先生より)
本市民公開講座では、消化器外科の現状と未来について、現場の先生や指導的立場の先生方まで幅広い視点から熱意あるご講演をいただきました。外科医の減少、働き方改革、育休取得、ジェンダー課題など、多様なテーマを通じて、現場が抱える深刻な課題とともに、希望ある取り組みも紹介されました。
外科医療の持続可能性は、医療者だけでなく社会全体で支えるべきものであり、本講座がその一歩となることを願っております。
【第二部】
パネルディスカッション(司会:比企 直樹 先生、大段 秀樹 先生)
ディスカッサント:調 憲 先生,黒田 慎太郎 先生,藤川 葵 先生,藤井 努 先生,阪田 麻裕 先生,今村 一歩 先生
まとめ(司会の大段 秀樹 先生、比企 直樹 先生より)
講演終了後、第二部として参加者の皆様から寄せられた質問票をもとに、登壇者による質疑応答が行われました。医師の働き方改革、国レベルでの対応、外科医の待遇、育児とキャリアの両立、教育の問題など、参加者の関心が高いテーマについて率直な意見交換がなされました。市民の目線からの質問に対して、登壇者が具体的かつ誠実に応える姿勢が印象的であり、多くの参加者から「外科医療の現場が直面する課題を理解できた」との声が寄せられました。
■参加者の声と反響
会場には市民のみならず、多くの報道関係者も来場しており、講演内容に対して好意的な質問が多数寄せられました。
今後、複数の報道媒体による記事や特集の掲載が予定されており、消化器外科医を取り巻く現状がより広く社会に共有されていくことが期待されます。
■学会からのメッセージ
消化器外科医の減少は、国民の命と健康を守る医療体制そのものの危機です。外科医が安心して働き続けられる環境の整備と、社会の理解が急務です。今後も学会としてこうした課題に取り組み、継続的な発信を行ってまいります。
このたびの公開講座を通じて、社会的な注目が集まりつつある外科医療の課題を、多くの方々と共有することができました。
報道各社からの関心も高く、学会の取り組みを社会に正しく伝えていただける貴重な機会と受け止めています。
本講座の開催にあたっては、これまでアンケート調査等にご協力いただいた多くの会員の皆さまのご支援があってこそ実現したものです。
学会員一人ひとりの声が、社会への発信の力となりましたことに、心より感謝申し上げます。
引き続き、医療を支える外科医療の意義を広く発信してまいります。
■資料・報告書 サムネイル画像クリックで大きくなります