―ワークショップ―
ワークショップは完成した研究成果より,むしろ未完成の進行中の研究をとりあげるセクションである.聴衆との討論の中で助言や今後の方向性が指摘される.斬新な考えや新しい方向などを示すような発表が望ましい.発表内容が多岐にわたることから総合討論は司会者の判断で有無を検討する.(日本消化器外科学会「学術集会プログラムの定義」)
1.【食道】定型化に向かう食道癌内視鏡外科手術の実際 English
(Current status of standardization of endoscopic surgery for esophageal cancer)詳細
食道癌の手術は,この10年あまりで縦隔鏡を含めた内視鏡下手術が急速に全国的に広がった.内視鏡下手術は手術精度の向上などに優れる反面,操作空間が制限されるなどの問題点があった.近年これらを克服するためのデバイスや画質の進歩が著しく,3D画像や4K技術を採用した体腔内視鏡やロボット手術が普及しつつあるとは言え,技(skill)として,定形化を基盤としながらオリジナリティを追求するという食道外科医の醍醐味も否定できない.本ワークショップでは,食道内視鏡外科手術の進歩を示し,その定形化について論じていただきたい.
2.【食道】食道裂孔ヘルニアの手術を再考する
(Consideration for surgery of esophageal hiatal hernia)詳細
食道裂孔ヘルニアに対する外科的治療は,腹腔鏡下手術が標準となっている.しかし,その術式において,噴門形成の方法やメッシュの使用に関しては,十分なエビデンスがないのが現状である.さらに混合型・傍食道型食道裂孔ヘルニアにおいては,迷走神経前幹・後幹の同定が困難であることや,食道裂孔が大きく開大していることが多いため,滑脱型よりも再発率が高いという課題がある.本セッションでは,食道裂孔ヘルニアに対する至適術式とその適応の検討,術中偶発症の回避および再発予防のための工夫について議論いただきたい.
3.【胃】胃切除後のQOL向上を目指したエビデンスの創生
(Creation of evidence for improvement of QOL after gastrectomy)詳細
胃癌手術は拡大手術から低侵襲手術,機能温存手術,機能再建手術へ開発の中心が変化しつつある.腹腔鏡下手術,ロボット支援下手術などの低侵襲手術,噴門側胃切除(PG),幽門輪温存術式(PPG),神経温存術式などの機能温存手術やパウチ作成などの機能再建手術は,根治性を損なわず術後のQOLを保つことが必要である.しかし,これら術式は標準手術との予後の比較が臨床試験などで十分に行われておらず,また術後のQOLについても標準術式との差が証明されているとは言い難い.本ワークショップでは術後QOLの見地から,各施設における手術手技,周術期管理等の工夫,術後短期成績や腫瘍学的な考察を討論していただきたい.
4.【胃】胃癌における周術期化学療法の新知見 English
(New findings on perioperative chemotherapy for gastric cancer)詳細
これまでStage II/IIIの胃癌に対する術後補助化学療法の標準治療は,ACTS-GC試験により1年間のS-1,CLASSIC試験により6か月のXELOXが確立されてきた.近年,Stage II胃癌に対するJCOG1104試験,Stage III胃癌に対するSTART-2試験,4型/大型3型胃癌に対するJCOG0501試験の結果が次々と発表され,術前補助化学療法や免疫チェックポイント阻害薬を含めた周術期化学療法の開発が進められている.本ワークショップでは,胃癌における周術期化学療法に関する新知見に基づき,標準治療の問題点,Negativeとなった試験から得られた教訓,および今後の治療開発について討論していただきたい.
5.【大腸】Ta-TMEの手術治療成績と問題点 English
(Surgical outcome and problems for Ta-TME in rectal cancer surgery)詳細
直腸癌手術における重要な選択肢としてTa-TMEは新たなアプローチとして広がりをみせている.骨盤という狭く限定された空間内で拡大視効果と良好な視認性が確保できる点や骨盤深部での精緻な操作性が利点としてあげられる.Ta-TMEの腹腔鏡下TMEに対する優越性を検証する多施設共同ランダム化無作為比較試験が開始するなど,今後もエビデンスの創出が期待される.本セッションではTa-TMEの治療成績をご提示いただき,手技やデバイスの工夫,そして問題点を議論していただきたい.
6.【大腸】高齢者(80歳以上)大腸癌に対する外科治療
(Surgical treatment for elderly patients (over 80 years))詳細
わが国の高齢者人口の割合は世界一であり,80歳以上の人口もまもなく総人口の1割を占めるとされている.これに伴い,高齢者大腸癌も増加の一途をたどり,外科治療の対象も少なくない.高齢者は生理的老化に加えて臓器予備能も低下している.外科治療が過大な侵襲となると,合併症の発生や予後への影響も懸念される.近年,サルコペニアに加えフレイルという概念が広がり,担癌患者に対しての評価とともに多業種間の介入が良好な治療経過につながるとして,注目されている.本セッションでは,80歳以上の高齢者大腸癌についてその治療成績のみならず,外科治療に対する工夫や周術期の取り組みについてご発表いただきたい.
7.【大腸】炎症性腸疾患に対する外科治療の展望 English
(Future perspectives of surgical treatment for inflammatory bowel disease)詳細
IBDに対する薬物療法の進歩は著しく,内科的治療でコントロール可能な症例が増えている.一方,潰瘍性大腸炎における難治例や重症・劇症例,クローン病における狭窄性病変など内科的治療では限界のある症例も存在する.また,近年増加している癌化症例は手術の絶対適応である.しかし,外科的治療に関しては,手術適応の判断や至適手術時期,QOLを考慮した術式の選択,術後合併症の問題など議論は尽きない.本セッションでは,各施設で取り組まれている外科的治療戦略についてご発表いただき,内科との連携のあり方や,術式の工夫,術後合併症対策など現状の課題と今後の展望についてご議論いただきたい.
8.【肝】DAA治療後肝癌の手術における注意点
(The important points in hepatectomy for hepatocellular carcinoma after direct acting antivirals(DAA)treatment)詳細
近年登場した一連のdirect acting antivirals(DAA)によりC型肝炎ウイルスは,線維化進展症例であっても,ほぼ制御できるようになってきた.このため,最近ではsustained virological response(SVR)達成後の肝細胞癌の手術治療を行う機会が多くなったと思われる.一般にSVR達成により肝機能および発がん率は改善するといわれているが,本セッションでは,DAA治療が,手術適応,あるいは術後成績(短期・長期)に対して,どのようなインパクトをもたらしたかを論じていただきたい.
9.【肝】大腸癌同時性肝転移に対する最適な治療戦略は? English
(The best strategy for colorectal cancer with synchronous liver metastasis)詳細
切除可能大腸癌肝転移に対して外科治療を選択することはコンセンサスが得られている.しかし同時性である場合大腸手術と肝切除を同時に行うのか,あるいは化学療法を先行するのか,多発性である場合化学療法を術前・術後いずれに使用するのかなど,まだまだクリニカルクエスチョンは多く存在する.またALPPS手術も安全に施行できるようになり,治療オプションとして検討できるようになっている.そこで本セッションでは多様な病態を示す大腸癌同時性多発肝転移に対し,各施設における治療方針を提示していただき,最適な治療選択について論じていただきたい.
10.【胆膵】切除可能境界膵癌における術前治療の現状 English
(Current status of neoadjuvant therapy for borderline resectable pancreatic cancer)詳細
切除可能境界膵癌(Borderline Resectable膵癌, 以下BR膵癌)に対する術前治療は一定のコンセンサスが得られているが,化学療法の種類や治療期間,放射線治療の併用の有無といった術前治療の内容に関しては施設ごとに異なるのが現状である.また,BR膵癌は門脈系への浸潤のみ(BR-PV)と動脈系への浸潤あり(BR-A)とに細分されているが,これらに対して同じ術前治療でよいかどうかについては検討課題である.本セッションでは,これらの点を踏まえて,各施設のBR膵癌に対する術前治療戦略について大いに議論していただきたい.
11.【胆膵】膵液瘻の予防と対策 English
(Prevention and treatment for pancreatic fistula)詳細
膵切除後の術後管理において最も注意すべき合併症は膵液瘻およびそれに伴う腹腔内出血や腹腔内膿瘍であり,これらは手術関連死亡につながる重篤な合併症である.膵液瘻を予防するため,膵頭十二指腸切除においては膵消化管吻合法の改良,尾側膵切除では切除断端の処理法の工夫,さらには術後ドレーン管理も含めて様々な試みがなされている.本セッションでは,膵液瘻の予防のための対策として,手術手技の改良,ドレーン管理法,さらに膵液瘻を合併した場合の重篤化を防ぐための対策なども含め幅広く議論していただきたい.
12.【総論1】免疫チェックポイントと消化器外科
(Immune checkpoints and gastroenterological surgery)詳細
近年,免疫チェックポイント阻害剤をはじめとする癌免疫療法は,手術,化学療法,放射線療法に次ぐ,第4の治療と称されるまでになり,癌診療を大きく変革したと言っても過言ではない.しかしながら,消化器癌の領域に限っていえば,従来の抗がん剤に比して明らかなメリットとなる局面は一部でその効果は限定的と言える.本セッションでは,免疫チェックポイントを中心とする腫瘍免疫環境の検討や臨床試験の結果などにより,消化器癌領域における免疫チェックポイントに関連した治療法の選択,複合免疫療法の開発や周術期治療における展望など最新の知見を議論して頂きたい.
13.【総論2】周術期感染対策の最前線
(Front line for treatment of perioperative infection)詳細
1999年CDCのSSI対策ガイドラインの発表により本邦でも多くの施設において周術期感染対策に関心が寄せられるようになった.近年,日本外科感染症学会,日本化学療法学会から予防的抗菌薬のガイドライン,あるいはCDC,WHO,ACS/SISの新しいSSI対策ガイドラインのupdateが発表され,施設独自の感染対策への取り組みの報告も散見される.抗菌薬の選択や周術期感染管理に関する新しい取り組み,SSIサーベイランスの実践や感染対策の工夫・成果について周術期感染対策の最前線について討論いただきたい.
14.【総論3】消化器外科とゲノム医療の将来展望 English
(Future perspectives of cancer genomic medicine in gastroenterological surgery)詳細
コンパニオン診断に加えてがん遺伝子パネル検査が公的保険収載され,日本のがん治療が大きな転換点を迎えた.究極の個別化治療との期待から,大きな注目を集めているが様々な問題点や限界も存在する.遺伝子パネル検査結果の解釈が確立されていないことや,実際に治療にまで至る確率が10-20%程度と低率になっていることである.また,治療の効果やどのような患者にパネル検査を行っていくべきかに関して全く分かっていない.現状のコンパニオン診断を用いた治療成績に加えて,遺伝子パネル検査に対する各施設の準備状況や今後の将来展望について広く討議したい.
15.【総論4】AI時代を見据えた消化器外科手術
(Gastrointestinal surgery toward AI era)詳細
人工知能(AI)の開発により,消化器疾患における画像や病理におけるより正確な診断能力が向上し,医療現場に導入され始めている.消化器癌疾患における化学療法,放射線治療,免疫療法の効果予測や,各患者に最も効果的なprecision medicineの選択を効率よく行うために,AIの応用が重要視されている.本セッションでは,消化器外科手術において,AIを導入した臨床研究の実際や,今後予定しているAIを導入した臨床研究の計画などについて論じていただきたい.
16.【総論5】ICG蛍光ナビゲーション手術のこれから
(The future of ICG fluorescence navigation surgery) 詳細
消化器外科領域においてICG蛍光法はセンチネルリンパ節同定や腸管血流評価に始まり,現在は肝臓区域染色や肝腫瘍同定に応用され,欠かすことのできない手術技術として認知されるようになった.開腹用だけではなく腹腔鏡用のICG蛍光検出システムも使用できるようになり,ナビゲーション手術として非常に期待されている.しかしICG蛍光ナビゲーション手術が現状以上に安全かつ正確な手術に貢献するためには,さらなるbreakthroughが必要である.そこで本セッションではICG蛍光ナビゲーション手術が持つさらなる可能性,本手術のこれからについて論じていただきたい.
17.【総論6】肥満外科の妥当性の検証と展望
(Feasibility and future prospects of bariatric surgery) 詳細
肥満外科手術は,国内では腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を中心に広く行われるようなり,施設数・症例数とも急速に増加している.その著明な減量効果だけでなく,2型糖尿病などの肥満症関連疾患に対する著明な有効性が注目されているが,安全性の担保,長期的な効果など課題も多い.また,重症糖尿病患者への適応拡大や,先進医療に承認されている腹腔鏡下スリーブバイパス術の有効性など,さらなる発展が期待される領域である.本セッションでは,肥満外科手術の短期および長期成績をご提示いただき,肥満外科手術の妥当性の検証と今後の展望について議論いただきたい.
18.【総論7】ヘルニア(鼠径,瘢痕)手術の新知見
(New findings of inguinal and ventral hernia operation) 詳細
消化器外科で扱うヘルニアは鼠径部にはじまり,体表,腹壁瘢痕と多岐にわたる.その治療アプローチも腹膜前アプローチから腹腔鏡下アプローチに大きくシフトしてきている.治療成績が安定してきている現在においても,複雑なヘルニア(巨大ヘルニア,膀胱前立腺手術後,再発など)に対する治療は難渋するケースも少なくない.本セッションでは,各施設の治療成績のみならず,治療のピットフォールや新たな知見について総論から各論まで幅広く議論していただきたい.
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