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座談会:河野恵美子先生のNCD研究論文出版を記念して

座談会:河野恵美子先生のNCD研究論文出版を記念して 日本消化器外科学会男女共同参画ワーキンググループ

開催日時:2022年8月22日(月曜日)15:00~16:00

野村 幸世 東京大学医学部附属病院胃・食道外科(委員長)
調   憲 群馬大学大学院医学系研究科総合外科学講座
河野恵美子 大阪医科薬科大学一般・消化器外科学
大越 香江 総合病院日本バプテスト病院外科
小林美奈子 日本医科大学武蔵小杉病院感染制御部
田中 千恵 名古屋大学大学院医学系研究科消化器外科

I.はじめに

野村先生野村:お忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございます。今日は男女共同参画ワーキンググループの座談会ということで、もうご存じと思いますが、今回、河野恵美子先生が『JAMA Surgery』に消化器外科学会を通じたNCDを利用した研究ということで女性外科医関連の論文をご発表されました[1]。もう皆さま、お読みだと思いますけれども、そのことに関しましての座談会というふうにお考えいただければと思います。
 では、すごく簡単にですが、この論文の概要です。河野先生がご自身のご経験に基づいてご企画されていて、男性消化器外科医と女性消化器外科医で手術のトレーニング、手術の数、に差があるのではないかという仮説に基づいて、手術の難易度を、低難易度、中難易度、高難易度のものの代表的なものを選んで、性別、年齢別の外科医の手術経験数の差を見た論文になります。年齢といいましても、医籍登録後の年数が正直なところです。
 結果はほとんどの年齢で、どの術式を取っても男性のほうが手術をたくさんこなしているという結果になりました。しかも、手術の難易度が上がるほど男性優位、男性の数が多いという結果になったというのが概略ですけれども、結果であります。決してこれはある年齢層の話ではなくて、あらゆる年齢層でということですので、あまり出産とか子育てとかそういうものとは関係のない差のように思われます。
 河野先生、よろしいですか、そういう概略で。
河野:はい、ご説明いただいた内容の通りです。ありがとうございます。
野村:じゃあ、まず河野先生にお答えいただいてから皆さんのご意見をそれぞれ聞くという形で進めます。本日、4つか5つくらい、質問を用意しております。

II.NCD研究に至ったきっかけと女性消化器外科医が経験してきたこと、そして現状

河野先生 まず河野先生、この研究調査を行おうと思ったきっかけをお話しください。
河野:ご質問ありがとうございます。私自身が今まで「子どもを持ったら執刀させてもらえない」とか、「女性だと乳腺外科手術の機会が多く、消化器外科手術の機会が少ない」といった女性外科医の声をよく耳にしてきました。
 私自身も「子どもがいる」(つまり24時間365日働けない)という理由で、当時、日本で最も育児支援制度が充実しているといわれてる病院の外科医長という立場で働いていたにもかかわらず執刀は許されませんでした。トップダウン式で執刀ができるまで半年も要しました。私自身は病院から徒歩1分、PHSも入るような距離に引っ越し、覚悟を持って現場に立っていたわけなんですけども、頑張るチャンスさえも与えてもらえませんでした。私よりも学年が上で急性期病院で活躍している子育て中の女性外科医がいない理由もその時に理解しました。
 2008年に日本外科学会と日本臨床外科学会で女性医師セッションが設置されましたが、最初の頃は「周囲とうまくやっていくためには進んで雑用を引き受ける」というような発表が多く、中には「子どもを持ったら、乳腺外科は可能だが、消化器外科は不可能である」といった結論を言っておられた方がいらっしゃいました。今では考えられないような発表なんですけれども、女性医師セッションが設置された当初はそんな感じでした。その後、年々比較的恵まれた施設からの発表が増えていきました。その一方で、私は辞めていく女性外科医の声もたくさん聞いてきました。その声を聞くたびに、手術機会の男女格差を証明して、この世界を変えていかなければいけないなと強く思うようになりました。
野村:ありがとうございます。そうですね。では、大越先生にお伺いしましょうか。大越先生はお子さん、お持ちですよね。
大越:はい。
野村:同じような経験というか、似たような経験をされたことありますか?
大越:出産前のことですが、外科研修医・レジデントの頃から、同じくらいの年代の男性外科医と比較するとやはり乳腺の症例をあてられることが多かったと思います。
 外科がまだ臓器別になっていなかった時代のことですが、「女が外科に来たら乳腺」みたいな圧があって、何となく乳腺を選択する女性の先生が多かったという空気感を経験しています。
野村:ありがとうございます。大越先生は、今のお話の経験はお子さん持つ前からのような感じですね。
大越:はい。妊娠とか出産の前のことです。本来は本人の、私自身の希望をある程度お伝えする機会があったら良かったと思うのですが、そういう機会もなく「女だから乳腺を担当する」という空気があって、そのままそちらの方向を選ぶ女性の先生も確かにおられたと思います。
 ただ、私はそこで「女だから乳腺をやるのが普通」という扱いをされるのがすごく嫌でした。
野村:分かる、分かる。
大越:結局、京都大学の外科が臓器別に編成されたときに、消化管外科を選びました。
野村:田中先生はどう? 田中先生は、お子さんいらっしゃらないけど、今の大越先生の話だと、お子さんとか持ってなくても女性だというだけでそういう違いみたいなのをもたらされることがあるようだけど。

田中先生田中:そうですね。私の出身大学は、当時は、「外科に女性は要らない」っていう雰囲気でしたね。
野村:やはり、まだそうだった?
田中:私は、医学部を卒業した時点で外科に行きたかったので、それを見据えて研修病院を選んだつもりだったんですけど、自分も調査不足だったかもしれませんが、研修を開始してからわかったのですが、その病院は女性外科医は要らないような空気がありましたし、いろいろあって結局、研修後に病院を変わりましたね。
野村:先生でもそういう経験してるんだ。いや、先生はもうすごいばりばり切ってるから。
田中:いやいや。研修後に拾ってくれた病院は、当時の手術症例数はそれほど多くない病院で若手が少ないので「もうぜひ来てほしい」って言ってくれたので、喜んでそこに行きました。その病院に異動した後は、私は他の先生方みたいにお子さんとかいないので、あまりそういう思いはないですけど、入り口はそうだったので、今、皆さんが言われてるような気持ちは何となく理解はできます。
野村:やっぱりそういうのはあったんだ。
田中:今は出身大学も研修病院もそういうことは全くないようですが。
野村:そうか。いや、先生は何かラッキーなところを巡ってきたのかなんて思ってたんだけど、そうでもないんだ。
田中:私、そこまでそんなに運、良くないんですよ(笑)。
野村:小林先生はどう?
小林:そうですね。私は三重大学の消化管外科在籍中は、教授として楠先生が来られてからは全く男女の差っていうのを感じない中で育てていただいた。私の下にも女医さん、3人ぐらい入局しましたが、みんな、自分の希望通りにさせていただいてる。だから、手術をどんどんしたい子はさせてもらってるし、妊活のため大学を離れたいと言えば大学病院から出してもらえるしっていう形で、どちらかっていうと男性の先生よりも優遇されているなっていう環境でした。
野村:先生はハッピーだったんだね、割とね。
小林:私はとてもハッピーに過ごさせていただき、自分のやりたいことを本当にずっとやらせていただけてきましたね。
野村:やっぱりボスディペンデントなのかもしれないよね。
小林:それがすごく強いんだと思いますね。
野村:うん、そうだね。すいません。ここで振って申し訳ないですが、調先生。ボスの立場として、いかがお考えになりますか。
調:いえいえ、やっぱりね。今、本当、お話を伺いして、皆さん、つらいっていうかな、厳しい中でやってこられたんやなと思って。僕はもう肝胆膵、肝移植だったので、比較的やっぱり女性が選択されてる自体が少なかったっていうのもあるんですけど。今、1人、群大の肝胆膵外科にも女性がいますけどね。
 そういう意味で、何でしょうね。皆さん、おっしゃるけど、いや、今日的な話でいけば、やっぱり男性も女性も一緒だなと思ってね。今年、入局してくれた子が、入局説明会っていうのがあって「さくらで質問していいよ」って、男の子ですけどね。男の子に聞いたら「分かりました」って。唯一の質問が「育休取っていいですか」って言われて。そこから始まってるので、やっぱりみんなの意識はもう全然変わってきてるなと思って。実際、その子には育休を取ってもらいましたけどね。
 だから、そういうふうな流れの中でやっぱり進めていかないと、結局、不公正な文化の中では健全なものは育っていかないんだろうなっていうのは感じてるので、そうあるべきかなと思ってます。
野村:ありがとうございます。
調:すいません。一般論でしか、申し訳ないんですけど。
野村:いえいえ。いや、私は子ども持ったの遅いですし、恐らく調先生と同じように、もう24時間、病院にいるのが普通みたいな研修医生活を送ってますので、全然、何かそのこと自体にすごい苦痛を伴ってたかっていうとそんなことはないんですよね。それはそれでやってたっていうのが本当のところなんですけれどもね。
 ですけど、確かに今の子たちを見てるとそういうことはしそうにないですし、これから働き方改革で本当に時間、制限されるみたいですので、考えていかないと駄目なんですよね、きっとね。そこでやっぱり男女差ということはあまりなくなっていってほしいなと思ってますね。
 ただ、今、大越先生とか田中先生もおっしゃってたように、たとえ子どもを持たないで、そうすると男性と労働時間制限は関係ないですよね。そんなに差がないにもかかわらず「女性だから、じゃあ、乳腺ね」みたいな、そういうのって何かこう、それだけでやる気をそぐっていうのか、非常に疎外感を味わうんですよね、女性としましてはね。
 なので、そういう決め付け。もっとぶっちゃけた話、例えば保育園に行ったら、女の子はピンクで男の子は水色みたいな、そういうのって、もう何かこうやっぱ決め付けの世界で、これは非常に悪い影響があるように感じているんですけれども。
 別にこれからは肝胆膵の移植みたいなのに女性の外科医がばりばり入ってきても、先生としてはウエルカムしていただけます?
調:もちろんです。
野村:なるほど。
調:先ほどの話は東大の入学式での上野千鶴子先生が「多くの娘たちは翼を折られてきてる」っていうのをおっしゃってましたけど、そのことなんだなと思いながら。
野村:ぜひencourageしていただけたらと思います。
調:やっぱり一つは、何となく思うのは、例えば肝胆膵外科の高度技能専門医っていうのがあるんですけど、これは取得が平均が41歳なんですよ。
野村:結構難しいんだ。
調:いや、もっと早く、みんな、やっぱり取らないと。特にやっぱり先ほど河野先生の論文読んでも、やっぱりPDの術者が女性になかなか回んないみたいな話があって。多分、修練期間が長ければ長いほど、現状のライフイベントに対する支援が十分にえられていない女性にとって厳しい部分があって。みんなが例えば30半ばぐらいで高難度手術の術者に到達できるようなシステムを考えないと、なかなか生き残っていけないのかなって、外科全体が。他の科ってもうちょっと早く手術の一人前になるじゃないですか。
野村:そうですね。いや、確かに学生さんの話なんか聞いてると、なかなか一人前になれないっていうのは、やっぱりそこを避けて通る一つの理由になっているような気がするんですよね。ですので、早くみんな、独り立ちしたいっていう気持ちはあるように私も感じますね。
調:それでもう一つ言うと例えば会員の比率で外科学会が10%ですよ、女性が。消化器外科が7%。
野村:7、はい。
調:肝胆膵外科が4%なんです。だから、そういう形になっちゃってるんだなっていうことですね。それは、一つはやっぱり修練期間が長過ぎるっていうか、到達期間が長過ぎるっていうのはやっぱり一つあるんじゃないかなと僕自身はちょっと思ってるんですけどね。やっぱりもうちょっと効率良くしたら別に若くて術者ができるようなシステムをつくっていかんといかんのだろうなと思っています。
野村:みんな、どんどんやりたいわけですよね、若い人にしてみれば。ですけど、すごい古いシステムだと、何か一番偉い人だけがいつも執刀して、あとは何かもう見えないところで鈎引いてるっていう。それが何かこう、偉くなる修業だみたいな、そういうあれってありましたよね、一昔前は(笑)。
調:それは……(笑)。
野村:ありがとうございます。じゃあ、いろいろ聞きたいけど、河野先生に、次の質問に行っていいですかね。河野先生、大丈夫ですか。
河野:はい。

III.研究開始から出版までの道程

野村:じゃ、次の質問は、この論文に関しての申請ね。申請はこのNCDを利用した研究っていうことで消化器外科学会に申請したわけだけど、この申請から今回の出版までって、結構、いろいろとご苦労があったかと思います。もう期間も長いの分かってるんですけども、どんなことがあったか、ざっとお話しいただけますか。
河野:このNCDのチャンスは実は2018年にやってきまして、野村先生から消化器外科学会がNCD研究の募集を評議員対象に行うという話を伺いました。その時に大越先生と3人で挑戦しようっていう話になったんですけれども、ただ、この当時は学会内に男女共同参画のワーキンググループがなかった時代で、女性医師関連の研究が消化器外科学会で採択されるのは極めて難しい状況でした。どうすれば採択されるのか色々考え抜いた末、岐阜大学の吉田先生に研究の責任者になっていただき、吉田先生のご指導の下、2018年に採択されました。
 これはこれで良かったなと思ったんですけど、喜びも束の間で、その後が非常に大変でした。アイデアはもちろんあったんですけども、私自身がこれを論文にする実力がないということが一番の大きな問題でした。ここでは細かいことは申しませんが、そのことが原因で非常に理不尽な経験もしましたし、圧力も受けました。
 私は今まで外科を去った女性医師の声を沢山聞いてきたという自負がありましたので、彼女たちの思いも背負って、私はファーストオーサーとしてこれをやりきらなければ死ぬに死ねないと思っておりました。なので臨床医としてのキャリアをもう泣く泣くいったん中断して、3年半前に大学に飛び込むという決断をいたしました。ずっとこだわって、市中病院で臨床をやってきた自分にとっては非常に勇気の要る決断でした。
 野村先生には大変辛抱強くご指導いただきましたし、論文の内容以外の部分でもたくさん心配やご迷惑をお掛けしました。NCD解析側の山本先生と五十棲先生と出会えたことも非常に大きかったと思っています。私の想いを非常に大事にしてくださって、どんな低レベルの質問でも丁寧に回答してくださいました。本当にそういう仲間に恵まれたから『JAMA Surgery』に辿りつくことができたのかなと思っています。野村先生、改めてありがとうございました。
野村:いえいえ。いや、楽しませていただきましたし、そんなに指導に苦労したかっていうとそんなことないよ。だって、先生はちゃんと仕事、出してくるもん。一番困るのは出すと言ったきり、いつまでたっても出してこないやつがいっぱいいるから困るんだけど、先生はそんなことないので、大丈夫です。
 でも、そうですね。申請からここまで、よく来ましたよね。本当に最初、大変だったよね。正直な話ね。
河野:はい、大変でした。
野村:大越先生は河野先生がこの話を持ってくる前に、既に案を言ってたよね。大越先生の姉妹論文も、アクセプトされたんだけど。大越先生はそれ、どういう意図だったっけ。
大越:女性医師が受け持っていた患者さんのほうが予後が良かったとか、手術症例でもちょっと女性外科医のほうが男性外科医よりも手術成績が同等ないしやや良かったという先行研究がありました[2-5]。日本でも同じような結果が出たら、女性の外科医がもうちょっとencourageされるのかなと思って、調べたいと考えていました。NCDを使ったら、規模も大きいし結果を出せるんじゃないかなと思って、野村先生と河野先生にご相談させていただきました。
 もうひとつは、以前、外科学会のアンケート結果を使って男女の外科医の収入差などに関して論文を書いて『Surgery Today』に投稿した時に「このような国内の問題は、国内の日本語の論文として出すべきだ」というコメントでエディターキックされたことがあります。日本の学会が女性医師の問題を軽んじているというか、あまり重要な問題として捉えてないのではないかと感じました。そのときにエディターキックされた論文も実際は海外の別のジャーナルにちゃんとアクセプトされて、もうパブリッシュされています[6]。日本から発した女性外科医に関する研究結果も海外でちゃんと評価されるんじゃないかといういう自信みたいなのはちょっとありました。日本の男性の先生方に、是非見てもらいたいなという気持ちもありました。
野村:ありがとうございます。そうだよね。今回、河野先生のこの『JAMA Surgery』[1]にしても、それから先生の『BMJ』[7]にしても、ものすごいレフェリーは好意的だったっていうふうに私は感じていて、それでアフガニスタンじゃないけど、何かやっぱり「日本、ひどいよね」っていうような、そういう書き方はしてたよね。だから、リジェクトはないなっていうような感じでしたよね。
 小林先生はいっぱい海外にも論文書かれてると思うんだけど、そういうのってどうですか。やっぱり日本と海外とで価値観の違いみたいのってだいぶあるような気がするんだけど。

小林先生小林:そうですね。私は感染症関連で書くことがほとんどですので、抗菌薬の使用量とか使用期間とか基本的な考え方が全然違ったので、その辺はちょっと日本のことをそのまま書いても全く「何言ってんの?」みたいなことでアクセプトされないっていうのは多々、経験がございました。
野村:でも、逆もあるよね。
小林:だから、そこをいかに上手に説明するかっていうところだと思ってて、「海外ではこういうのが一般的だけど、日本はこういう歴史があって、こうやってやってきてるのが普通です」っていうところで、「日本のスタンダードと世界のスタンダードを比べます」みたいな感じで、そこを理解してもらえるよう書いて、何とかアクセプトに持っていくっていうのをしてましたけどね。
野村:なるほど。だから、今回の河野先生や大越先生のネタっていうのは、どちらかといったら、海外でのほうが高く評価されるっていうようなネタだったっていえば、そうなんだよね。なので、いいところに出て。いいところに出ると日本人も無視できないっていうところがあるので、ちょっとうまく利用させていただいたと言われれば、そのとおりなんだけど。
 田中先生は胃がんが専門だよね、私と同じで。胃がんに関しては日本のほうがというか、日本が一番、圧倒的に成績いいんだけれども、だけど、なかなか海外への論文って出せないんだよね。逆に出せない。
田中:そうですね。分かってもらいにくい部分もありますね。
野村:そう。分かってもらえないんだよね。
田中:ええ。
野村:先生なんか、どう? 胃がんの論文なんか出す時に、これは海外のほうがええなとか、これは日本のほうがええなとか。
田中:海外では分かってもらいにくいと思うような時はやっぱり国内の人が結構関わってるような、そういうところに出したりとかを狙ったりとかはしますね。
野村:そうね。何かうまく融合できたらいいんだけどね。
田中:難しいですよね。
野村:うん、私も感じる。かえって胃がんの論文、海外、難しいねって。
田中:ええ。
野村:そういうわけでうまく利用させていただいて、そしたらばっちり行けちゃったっていうのが今回のことですが、でも、ぜひこれを期に、日本の男性の先生もこういうのは価値のあることなんだって思ってほしいななんて思いますけれども、調先生、どうでしょうか。
調:やっぱり日本の社会って黒船じゃないんだけど、世界から何か圧迫を受けないと変わらないっていう歴史的な繰り返しがあって、そういう意味では今回の河野先生の論文がそういう引き金になったらいいかなっていうふうに感じますね。
野村:ありがとうございます。
調:いかにわれわれがちょっとゆがんだところにいるのかっていうのを改めて世界から指摘されて分かるっていいますかね。そういうきっかけになればいいのかなっていうふうに思いました。
野村:いや、本当、分かっていただければいいんですけどっていう感じですね。
 先生も留学されてたことあられると思いますけれども、私もアメリカにいたことありますけど、やっぱり弱い者に対してはすごい味方になってくれますよね、向こうの社会ってね。なので、そういう「差別はいかん」という概念は強いように感じましたけれどもね。

IV. 目指すべき消化器外科のこれから

じゃあ、次の質問に行かせていただきます。河野先生、こういう実態を見て、今後の消化器外科の業界はどうあってほしいっていうふうにお考えですか。
河野:私、ちょっと2つのこと、まとめてきました。はっきり言い過ぎてしまうかもしれないんですけど、2つのこと言わせていただいても宜しいでしょうか。
野村:どうぞ。
河野:1つは、今までやっぱりワークライフバランスといいますと女性だけのもののような風潮があったんですけど、今やそうではありません。労働環境の厳しい科には男性も志望しません。「24時間365日働くのが外科医」とわれわれは教育されてきましたけれども、ご自身の健康、家族や趣味の時間も大事にしながら、プロとして仕事するのがこれからの外科医の姿ではないかなというふうに考えてます。これがまず1点目です。
 2点目ですけど、真の意味でのダイバーシティっていうのが進むことを願ってます。性別にかかわらず、一人一人が尊重されて多様な人が共存できる外科社会であってほしいと思います。
 消化器外科学会の評議員制度が一番公平だというふうに主張する方がいらっしゃいますけれども、本当にそうなんでしょうか。大学の偉い先生が一番ポイントを稼ぎやすく、評議員になりやすいシステムになってませんか。市中病院に勤務していたり、人数の少ない病院で働いてたら厳しいんじゃないでしょうか。女性の枠を増やしたから解決なんて問題ではないと思っています。世の中には資格や論文で測れない優秀な人材がたくさんいます。ですから、今後は多様な人材を評価できるような方法を考えていくべきだというふうに私は考えています。
 先日、SNSを見ていますと、子育て・共働き世代の男性外科医が匿名で「医局のことは好きだし、尊敬する上司もたくさんいますが、今まで当たり前とされてきた身を削るような働き方は到底まねできる気がしません。大改革が必要と思いつつも若手の僕には動きようがないし、策もない。波風立てずに見守るしかできない」とか「昔の医局制度を引きずってる上の先生たちはすごくしんどいだろうな。今までの常識が非常識として考えている後輩しか入ってこないし、これからを期待した子は思ってる以上に自分たちの思ったとおりには動かないから」という投稿を目にしました。
 学会の中枢を担っている先生方にはぜひともこれら本音の部分に目を向けていただいて、未来の外科診療のために改革を進めていただければなと願っております。以上です。
野村:ありがとうございます。一応、いろんな枠を北川先生も考え始めてくださってるとは思うけどね。だけど、難しいよね。女性だけの話じゃないね。外の病院にいたら、なかなか論文とか書けないしね。それで評価するっていうのもなかなか難しいものだよね。
 小林先生に伺いましょうか。小林先生は結構、すごい頑張って、評議員になる点数を稼いでるけども、どう思われます?
小林:どうなんでしょうね。難しいですね。現在は感染のことばっかりやってて、外科に関連したものを書くっていうことができないので、あれですけど、年に2本程度コンスタントに書いてあと他の先生の論文にちょっと入ってればっていう感覚なので、そんなに何か市中病院だからとか大学病院だからっていうほどかなっていうのはちょっと感覚として思ってますけど、そんな何十本も書かなきゃいけないとかであれば、それはちょっと話が別ですけど、自分がファーストで書いてればそんなにいっぱいでもないので、やろうと思えばやれなくはないんじゃないかなって思いますけど。
野村:でも、それは小林先生が、みんながいい人で、小林先生の名前を入れてくれるからじゃないの、論文に。
小林:いや、だから、自分がファーストで書いてればってことです。人のに入ってもそんなに点数は高くないじゃないですか。消外が出してるAGSだったら点数高いですけど、それ以外ので人のに入れてもらってもそんなに点数高くなくて、やっぱ自分で書かないと、自分で書いちゃえば、そんなにいっぱい書かなくても。
野村:そう? そんな年間2本ぐらいで行ける点数だった?
田中:ちょっとルール変わったんですよね。
小林:で、あと、学会発表してって。
田中:ルールが変わる前とはちょっと話が違うかもしれないですけどね。
小林:でも、なかなか書けない人も多いですし、子育てしながら書くなんて難しいとは思うので、それを論文だけで測るっていうのはどうかと思うけど、じゃあ、何で評価するっていった時にちょっと難し過ぎてって思いますけどね。
野村:難しいね。あとはいろんな種類の枠をつくるのかなとかも思うけども、それをまたどういうふうに区分けするのかっていう問題もあるよね、きっとね。とは思うんですね。
小林:そうですね。男性医師でも別に医者だけじゃなくて、他のこともやりながら、やってる方とかもみえて、そういった方のご発表とかも聞きますけど、結局、自分と同じことをしてない人たちは排除したいって思ってる人が多い。
野村:ああ。
小林:自分は外科をめちゃくちゃ一生懸命頑張ってるから、あまり頑張ってない人は嫌だ。だから、家庭持って、子ども持って、子どもの世話しながらやってるような人と一緒にされたくないとか、作家やりながら医者をやってる男性ドクターのことは認めたくないとか、そういう社会なのかなって。そこをまず変えてくれないとなっていう気はしましたね。
野村:そうだね。それはすごくいい点だよね。何かこう、自分と違う種別のやつは認めたくないっていうのがあるんだ。あるあるだよね、それね。
小林:そう。認めたくないっていうのがあると思いますよね。
野村:それだけ消化器外科の先生が消化器外科に打ち込んでこられたっていうのは事実だと思うんですよね。なので、そのくらいみんな、一生懸命になってくれなきゃ認められないっていう感覚っていうのがきっとおありなんだろうっていうのは事実だと思うんですけれども、でも、きっとそこをやっぱり変えていかないと、これからの消化器外科がdeclineしちゃうのかななんていうのは思わないわけではないですね。
 田中先生、どう思います? ばりばりやっている田中先生。
田中:いや、そうですね。私、今は大学にいるんですけど、若い先生は価値観が違うと感じることはありますね。若い先生と話をしていると、もう私は古い世代の考え方なんだなって思いますし、私の価値観からすると目からうろこのような話が結構出てきて。
 先ほどのネットの話じゃないですけど、河野先生の言われてた話じゃないですけど、我々の価値観のみを押しつけるのではなく、やっぱり若い先生の価値観をうまく汲んで、若い先生に失望されないように、かつ手術の質が担保できるようなうまいシステムを本当に真剣に考えないといけないんだろうなというのは、本当に特に最近、身をもって感じるところですけどね。
野村:そうですね。若い先生がおっしゃることに、もちろん、そうだよねって思うんですけど、これと同時に、当然、医療の質っていうのは下げちゃいけないわけで、そこをやっぱりうまくやっていく必要っていうのがありますよね。
 大越先生なんか、外病院でばりばりやってるけど、どうですか、その辺は。

大越先生大越:私、そんなにばりばりやっているわけではないんですけど(笑)。そうですね。うちの病院の常勤の医者は女性のほうがむしろ多いぐらいなんです。
 よくいうcritical massっていいますけど、人数が必要ですよね。その集団におけるある程度の割合が必要で、消化器外科学会に女性がまだ7%しかないっていうのがすごくまだまだ女性に不利な状況なのだと思います。だから、消化器外科の医局に常に3割ぐらい女性がいたら、もうちょっと変わっていくところはあるのかなと思います。
 うちの病院の外科の常勤は2人しかいないから、50%女性なんです(笑)。
野村:そうそう。だけど、2人しかいないっていうことは、結局、「今日は帰ります」とかってなかなか言い難いじゃない?
大越:うちの上司はかなり配慮してくれていると思います。今日はもう午後にdutyがないということであれば、午後に半休取ったりとかして、いわゆる年休5日消費っていうのを病院全体で実践しています。
野村:いや、それはいいと思うんだよ。ていうか、私なんかも年休、消費するのに苦労してて、何か「取るように」命令されたりしますよ。でも、手術長引いたりとか、そういう時に2人だとつらいよね。絶対代われないし。
大越:そうですね。子どもの誕生日に夜中まで手術していて、帰ったら切り分けられたケーキが冷蔵庫の中だったということもありました。
 ただ、もともとうちは大きい規模の病院ではないので、ICUが必要な手術は大学に紹介することになっています。それに、予定手術であれば勤務時間内に終わるような手術の組み方をしています。麻酔科医もそんなたくさんいませんから、手術のスケジュール自体がそんなに大学病院みたいにタイトにできません。そういうところには助けられてるかなと思います。
野村:ああ。それ、でも、いいね。
大越:ただ、外科医として振り返ってみると、もうちょっと執刀しても良かったのかなという気もします。子育てしながらだったので、これでもいっぱいいっぱいだったんですけど。
野村:でも、ローアンテとかやってるでしょう? 先生。
大越:今はローアンテもやりますね。
野村:まあ、その程度やれれば悪くないのでは。だって、そりゃあ、うんと合併症が起こりそうなものは難しいよね、ICUなかったりしたら。
大越:そうですね。
野村:なるほど。何にしても余裕を持ってできればいいなっていう感じですね。
さて、ありがとうございます。じゃあ、ほぼ最後の河野先生への質問。多分、この論文にあるような消化器外科医での手術経験の男女格差ね。
これはもちろんいいことではないと、多分、ここにご参加くださってる方は多く思ってくれているのではと思うので。そうしたら、こういうことが今後、再発しないような方策はあるか。もしくは実は納得してくれていない人はいっぱいいると思うので、こういう格差を監視できるような方法はあると思いますか、河野先生。
河野:ありがとうございます。やっぱり行動変容につなげるっていうのは非常に難しいことだなって思っていて、そのためには戦略が必要と考えます。
 今回、北川先生と調先生と野村先生のお名前で「女性消化器外科医の手術修練に関する周知依頼」を全会員に出していただきましたけれども、メールを読まれた方は問題点には気付いたと思うんですけど、野村先生がおっしゃったように、行動を変えようと思ってない人もたくさんいると私も考えます。そこで、次の一手として、下記の提案をしたいなと思っています。
 まず1つ目が日本消化器外科学会認定施設代表者に対し周知依頼をお願いしたいです。野村先生もおっしゃってるように、外科をマネジメントしている者が手術の執刀を決めますので、トップの意識が変わらなければ若手がいくら意識していても変わりません。
 2つ目が、NCDを用いて、施設ごとの執刀数の男女比較ができるようにご検討いただけたらと思います。もし現行のシステムでご自身の施設状況を見れるならば、施設代表者が学会に報告して、格差がある場合はその理由を記載していただく。現行のシステムでご自身の施設の状況を見れない場合は学会からデータを渡す。施設代表者がご自身の問題として認識することがやはり行動変容を促す第一歩だというふうに考えるので、このような提案をさせていただきました。
 3つ目として、明らかな不当な格差であった場合は、実際、ヒアリングを実施する。以上です。
野村:そうだね。全然、これにはアグリーなんだけど、いわゆる若い時の修練施設っていうのに対してだったら、執刀数の男女比較の検討がまだ可能かなっていう気がするんだけれども。でも、先生のデータを見ると、結局、どの年齢を見ても、女性のほうが執刀数が少ないですよね(笑)。だから、研修が終わった段階、研修が終わって以降っていうのに、こういう監視システムを置くっていうのはなかなか難しいよね。
河野:やっぱ難しいですかね。
野村:研修以降は、いわゆる研修のための施設以外にも散らばるわけじゃない? そこまでできるかなとちょっと考えたんだけれども。
 大越先生、どういうシステムが考えられると思う?
大越:結婚する前とか子どもを持つ前に症例に偏りがあったというのは本人の希望というわけでもないので、すごく差別的であったと思うんですよね。
 ただ、子どもを持った時にどれぐらい仕事をセーブしたいかっていうのには個人差があるので、私も子どもを持った後に同じだけ症例を執刀できたかと考えると、やりたい気持ちはあっても難しかったと思うんですよ。
 さっきワークライフバランスの話がありましたけど、女性はどうしてもケアワーク、家庭内の仕事を男性よりも多く担ってるところがあるので、それをしながら、さらに手術も同じだけするというのは難しいと思います。そういう家庭内の性別役割分担が解決しないまま、手術症例とか執刀数だけ同じだけやろうとするお子さん持つ前からのようだと女性側が過労死しかねないので、そこもなかなか難しいところかなと思います。
野村:うん、そうね。田中先生はどう思う? もうそろそろ管理者側に足を突っ込んでおられるように思うけど。
田中:そうですね。私、今、上部で教授を除いて一番上なので、そういうことも考えるんですけど、やっぱり……。今回、私、大変申し訳ないんですけどこういう委員会に入れていただいて初めて男女共同参画のことを考えるんですけど、実はもうそれまで自分のことで手いっぱいで、今もいっぱいいっぱいですけど。
 私自身の経験でいうと、いろんな方の話を聞いてると、結局、子どもとかを産んで、両立したいって言われている方がどのタイミングでどういうことを望んでいるのかが分からない。キャリアプランは個人差があって当然で、さっき大越先生が言われたように、子供を産んでもばりばり働くことを望まない方もみえると思うし、ばりばりやりたい方もみえると思うし、それは男女の問題に限らず、やっぱりそういうことになってくると一律で決めるのが難しいって感じるのはすごくありますね。それが次の問題としてあるのかなと個人的には思っていて、もう下の先生を指導する立場になってくると頑張ってる人の応援はすごくしたいんですけど、どういうことを求めているのか自体、私が分かっていなかったというか、子ども産んだ女の先生とかと話をしていても、何に困っていて何を手伝ってほしいのか自体が分からないっていうのがありますね。私がそうなので、男性の管理者の先生も、そういうのもあるのかもしれないとも思います。
 やっぱり、個人の事情もあると思いますし、病院の規模とかの事情によっても違うと思うので、なかなか一律にできない難しさがすごくあるような気がするんですけど、何とかその辺を加味してできるといいなと思います。システム化っていうと難しいのかもしれないと思ったりしますね。
野村:やっぱ個人差はあるよね、きっとね。絶対あるよね。
田中:ばりばりやりたいっていう人も、やってる人も、うちの関連病院でもいますし。女性に限らず、男性でもやっぱり子供が産まれたからセーブせざるを得ない環境で、男性でも産休を取らなきゃいけない、本人はやりたいけど、おうちの環境でやらざるを得ないっていう人もいますし、産休を取りたいっていう男性の先生も、育休を取りたいっていう先生もいると思いますし、それは男女限らない問題だと思います。特に今は女性の問題としてとりあげられていますが、男女限らず個人の希望を聞いてあげられればいいなっておもうのですが、人が少ないとやってあげたくても希望どおりにしてあげるのは難しくなってしまうと思ったりしますけどね。
野村:なるほどね。でも、確かに今、いい点で、それは女性に限らずなんだよね。それは今の若い人のいいところで、男性でも育休取りたいとか産休取りたいとかっていうのっていうのはしかるべきといえばしかるべきだよね。
田中:そうですね。すみません。ちょっと話が代わって河野先生の論文の話になりますが、論文のfigure 2の2年目、3年目からチャンスをもらえていないっていうところは非常に、インパクトがあって、私はすごく驚いたというか。
野村:そうだよね。まだ要するに子どもなんか持ってなさそうな年齢での話だもんね、あれってね。
田中:そうです。そこから40代のほうまでずっと、しかも難易度が上がると、その男女の差がすごく開くっていうところはやっぱりみんなに知ってほしい現実ですね。
野村:そう。あと、しかも、大変申し訳ないけど、消化器外科医の中でお子さんを持ってる女性外科医の割合って実はそんなに高くないんだよね、本当のこと言うとね。なので、それからしてもこの差はおかしいよねっていう。それをもし加味したとしてもおかしいよねっていう気はしましたね。
河野:海外でも研修時代の比較がなされていて、それでもやっぱり女性は自立的な手術が少ないっていう、そういう結果になってるんですよね[8]。別の研究では女性の指導医と男性の指導医を比較した場合、女性の指導医のほうが女性研修医に手術を主体的にさせてあげてるとかっていうような論文もあったりとかして[9]
 この研究をやり始めた時は、結婚とか出産の30前半ぐらいのところから、差が開くのかなと思ってたんですけど、それ以前から差が出ていて、海外と同じ傾向にあるなっていうことが分かりました。
野村:そうだよね。だから、やっぱり配分に格差があると思うのね。
田中:私、これまでにたくさんの人に手術を教えてますけど、男女で技量の格差は全く感じないんですけどね。
野村:ないない。それが今度、大越先生の出るBMJのやつで。
田中:そうなんですか。
野村:そうそう。全然、手術成績は劣らない。
田中:やっぱり全然ないんですね。
野村:全然悪くはない。だから、要するに技量がこの配分の差になってるっていう理由は成り立たないという意味なんだよね。その2つ、ペアで言いたいのです、本当は。
 正直言って、技量に差があったら、多少は……。多少だよ。多少は「差があっても仕方がないや」っていう部分もあるじゃない? 「難しい手術はやっぱりきっと難しいよね」とかっていう話になるかと思いますが、全然そうじゃないんだよね。だから、やっぱり変だなっていう感じ。
 ちょっと話、ずれますけれども、今、田中先生からやっぱり個人差が大きいっていう話、出たんだけれども、調先生は医局員全員と毎年、面談をされてるというふうに伺ってますが。
調:関連病院は毎年やりますね。大学は年に2回やりますね。
野村:年に2回。すごいですね。
調:いや、でも、なかなかやっぱり言えない部分もあるでしょうね。前あったのは、やっぱりもう突然、涙ながらに、関連病院に勤務する30半ばの男性医局員ですけど、「やっぱり子育てが大変で、もう外科医辞める」って言うんですね。「何で?」と聞くと「いや、自分が手術した患者を、夜、急変して見に行けないでしょう」って。「そういうふうな外科医は認められない」って自分で決めちゃってるんですよね。そういう価値観をやっぱり変えていかないと。
 だから、そこの延長線上として「子育て中の女性は急変しても来れないでしょ」みたいな話で「だから、難しい手術はさせられないよね」みたいな、そういうことがあるのかなっていうふうに思うんですけどね。
野村:そうですね。いや、おっしゃるとおりだと思います。昔はそういう教育されましたもん、実際。
調:うん。そこはもうやっぱり変えないと、チーム医療といいますかね。
野村:そうですよね。
調:消化器外科Under40の座談会のUnder40 clubでの話を聞くと、同じチーム医療っていっても、かなり幅が広くて。もう一切、自分の当番以外は一切出てこない。何の情報も入んないっていうところもあれば、急変したら出ていきますみたいな、いろんなところあるんですけど、やっぱりここはなかなか国民に、市民の皆さんに理解を得るの難しい部分もあるんだけど、もうこれが当たり前なんですよって。主治医が夜中に出ていくっていうことはもうないんですよっていうのをやっぱり徹底していく。そういうことも学会の役割かなっていうふうには思いますけどね。
野村:そうですね。
調:そういうところからやっぱり、その2つがリンクして「だから、女性には大きな手術はさせられないよね」っていう論理はやっぱり明らかに変えていかないといけないというか。
野村:そうですね。厚労省から来るアンケートにも、よくチーム医療かどうかっていうのをチェックする欄があるんですけれども、どの程度のことをチーム医療って呼んでるのかっていうのがちょっといまいちよく分からなくて、いつも答えるのに困るんですけどね。
調:ええ。ただ、ちょっと何かこう、本当に何ていうかね。「本当に悪くなったら、主治医が行くの、当たり前でしょ」みたいな感じのチーム医療もあるわけですよね。でも、それってもう成立しないよと思いますよね。
野村:そうですよね。主治医だって海外出張もあり得るわけですし、やっぱりもうほぼ完全チーム制っていうことを最初にご納得いただくっていう必要性もあるかもしれないですよね、患者さんにね。ありがとうございます。
 では、もうすぐ、もう時間になってしまうので、河野先生、最後です。次の研究としては、何を計画してますか、この継続では。
河野:私、もう一つ、どうしても女性医師のことで証明したいことがありまして。これから技術革新が起こり、外科の分野も大きく変わることが予想されますが、それに向けて、どうしてもやっとかないといけないことが1つありまして、それを解決しないとやはりますます格差が広がるんじゃないかなという危機感持ってます。選定されるか分かりませんけれども、選定してほしいなと思ってます。
野村:内容は内緒ね、まだね。
河野:そうですね。まだ内容は。
野村:ぜひ、やっぱりこういうのって継続は力なりみたいなところあって、途切れないで次をやっていくというのがその研究分野での発展を招くと思うので、ぜひトライして続けてってくれたらいいなと思います。
 さて、じゃあ、そろそろ1時間になりますが、何か言っておきたいことがある方。いらっしゃらない? いい? じゃ、すいません。最後、調先生、おまとめいただけますか。

V. おわりに

大越先生調:ありがとうございます。今回の河野先生の論文、本当に僕らにとって大事なメッセージを含んでいると思います。
 北川理事長にメッセージを発していただきましたけれども、会員の一人一人がやっぱり自分のところに立ち戻って考えていかないと、なかなか変わっていかないかなと思います。
 先ほどいろんな学会の評議員の選考みたいな話も出てきましたけれども、なかなか難しい面がありますよね。この前、読んだ本で、日本人って結局、日本人独自の土俵をつくることができない。例えば未だに20世紀型のGDPに囚われているのかみたいな、ブータンの幸せ度もあるじゃないかみたいな、そういう何か価値観をまた考えていかないといけないんでしょうね。だから、性別や世代を超えた対話の中で何か新しいものが生まれていけばいいなというふうには思います。
 もう一つ、最後に消化器外科の話ではないんですけど、肝胆膵外科学会、先ほどお話ししました高度技能専門医、過去12年間、行われてきていて、今、500人ぐらいいますけれども、昨年まで四百数十名中4人です。
野村:女性が?
調:女性がですね。今年、79名取ったんですけど、8名が女性です。4名から12名に増えたんですね。だから、そういう面ではやっぱ少し変わってきてるかもしれないなっていう気がしていて、僕はそういう数字をずっと注視していきたいと思ってます。
 そういう中で、公正で、それぞれの価値観を尊重するような世界、お互いを助け合う温かい文化を構築していかないと若者は引きつけられない。次の時代は多分ないんだろうと思いますので、皆さん、ぜひお力を頂いて、いろんなお知恵を頂いて、そういう世界に結び付いていけたらいいかなというふうに思います。河野先生の論文がその扉を開いたという気持ちがしています。私からは以上です。
野村:ありがとうございます。調先生、どうもすいません。皆さん、よろしいでしょうか。
 今日はお忙しい中、座談会にご参加いただきまして、ありがとうございます。では、失礼いたします。どうぞ、ご退室ください。

参考文献

[1] Kono E, Isozumi U, Nomura S, Okoshi K, Yamamoto H, Miyata H, Yasufuku I, Maeda H, Sakamoto J, Uchiyama K, Kakeji Y, Yoshida K, Kitagawa Y. Surgical Experience Disparity Between Male and Female Surgeons in Japan. JAMA Surg. 2022;e222938.
https://doi.org/10.1001/jamasurg.2022.2938
[2] Tsugawa Y, Jena AB, Figueroa JF, Orav EJ, Blumenthal DM, Jha AK. Comparison of hospital mortality and readmission rates for Medicare patients treated by male vs female physicians. JAMA Intern Med 2017;177:206-13.
[3] Tsugawa Y, Jena AB, Orav EJ, Blumenthal DM, Tsai TC, Mehtsun WT, Jha AK. Age and sex of surgeons and mortality of older surgical patients: observational study. BMJ 2018;361:k1343.
[4] Sharoky CE, Sellers MM, Keele LJ, Wirtalla CJ, Karakousis GC, Morris JB, Kelz RR. Does surgeon sex matter?: Practice patterns and outcomes of female and male surgeons. Ann Surg 2018;267:1069-76.
[5] Wallis CJ, Ravi B, Coburn N, Nam RK, Detsky AS, Satkunasivam R. Comparison of postoperative outcomes among patients treated by male and female surgeons: a population based matched cohort study. BMJ 2017;359:j4366.
[6] Okoshi K, Nomura K, Taka F, Fukami K, Tomizawa Y, Kinoshita K, Tominaga R. Suturing the gender gap: Income, marriage, and parenthood among Japanese Surgeons.
Surgery. 2016 159:1249-59.
[7] Okoshi, K., Endo, H., Nomura, S., Kono, E., Fujita, Y., Yasufuku,I., Hida, K., Yamamoto, H., Miyata, H., Yoshida, K., Kakeji, Y., &Kitagawa, Y. (2022). Comparison of short term surgical outcomes of male and female gastrointestinal surgeons in Japan: retrospective cohort study. BMJ (Clinical research ed.), 378, e070568.
https://doi.org/10.1136/bmj-2022-070568
[8] Joh DB, van der Werf B, Watson BJ, et al. Assessment of autonomy in operative procedures among female and male New Zealand general surgery trainees. JAMA Surg. 2020;155(11):1019-1026.
[9]Foley KE, Izquierdo KM, von Muchow MG, Bastawrous AL, Cleary RK, Soliman MK. Colon and rectal surgery robotic training programs: an evaluation of gender disparities. Dis Colon Rectum. 2020;63(7):974-979.

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