本年7月に行われました第58回日本消化器外科学会総会においてパネルディスカッション「消化器外科の臨床現場における倫理的問題」の際に本学会 の専門医教育認定施設における現状を知ることを目的に,アンケート調査をさせて戴きました.短期間での調査でありましたが,703施設の中から490施設 (回答率69.7%)と多数の施設から貴重なご回答を戴き誠にありがとうございました.
以下に今回の調査結果を掲載いたします.専門医制度の中での教育の在り方に関する倫理的問題への取り組みや医療安全対策などについて,今後,各施設において検討される場合の貴重な資料になると考えます.
日頃の診療や研究でご多忙にもかかわらずご協力をいただきました先生方に心より御礼申し上げます.
平成15年10月
パネル司会担当
田尻 孝(日本医科大学第1外科)
佐々木 巖(日本消化器外科学会倫理問題検討委員会委員長・東北大学大学院生体調節外科学)
「消化器外科の臨床現場における倫理的問題」
アンケート郵送数703施設
回答数490施設(回答率69.7%)
1. 倫理審査委員会,医療安全対策委員会の設置について
設置している | 設置していない | |
倫理審査委員 | 86.5% | 13.5% |
安全対策委員会 (リスクマネージメント委員会) |
98.6% | 1.4% |
2. 倫理審査依頼の有無について
審査依頼経験なし | 39.8% | |
審査依頼経験あり | 60.2% | |
内容: | 薬剤の治験関係 | 73.1% |
手術術式のRCT | 26.2% | |
遺伝子解析関係 | 38.9% | |
遺伝子治療関係 | 4.4% | |
疫学調査関係 | 12.7% | |
その他 | 18.5% |
3. 日常診療のICについて(1)
・手術について
ICの書類を作成していない | 3.0% |
ICの書類を作成している | 97.0% |
ICの書類を医師がサインしている | 78.3% |
ICの書類を医師と看護師がサインしている | 21.7% |
・内視鏡,血管撮影,造影剤使用などの検査について
ICの書類を作成していない | 7.2% |
ICの書類を作成している | 92.8% |
ICの書類を医師がサインしている | 88.2% |
ICの書類を医師と看護師がサインしている | 11.8% |
・輸血について
ICの書類を作成していない | 0.8% |
ICの書類を作成している | 99.2% |
ICの書類を医師がサインしている | 92.4% |
ICの書類を医師と看護師がサインしている | 7.6% |
日常診療のICについて(2)
・エホバの証人に対する施設としての対応について
対応を決めていない | 51.2% |
対応を決めている | 48.8% |
・施設としての医療事故が発生した場合の対応について
施設として特別な対応はなく個々に任せている | 6.4% |
施設としての基本的対応を決めている | 93.6% |
・ICとクリティカルパスについて
ICをクリティカルパスに取り入れている | 34.3% |
ICをクリティカルパスに取り入れていない | 65.3% |
4. 手術の責任体制について
とくに責任体制は決めていない | 15.4% |
責任体制を決めている | 84.6% |
指導医が責任を負う | 81.1% |
あくまで術者が責任を負う | 7.5% |
その他 | 11.4% |
5. 症例報告における患者プライバシー保護について
患者情報の非特定化に特に配慮している | 68.7% |
特に配慮していない | 31.3% |
6. 症例報告におけるICについて
特に配慮していない | 70.3% |
患者の非特定化が困難な場合,ICを得るか倫理審査委員会の承認を得ている | 17.2% |
遺伝性疾患や遺伝子解析を行った場合には発表のICも得ている | 15.5% |
その他 | 1.1% |
7. 症例報告における患者プライバシー保護に関する指針(案)
患者に対するインフォームドコンセントとプライバ シー保護は医療者に常に求められる重要な義務である.一方,症例報告は医学・医療の進歩発展と国民福祉の向上に重要な貢献を果たしている.実地医療の結果 報告として症例報告を行う場合には,疾患や治療内容と関連づけられる情報を,発表内容の質を低下させないよう記載する必要があるが,インフォームドコンセ ントとプライバシー保護に配慮し,患者が特定されないよう留意しなければならない.
日本外科系関連学会協議会は,ここに症例報告において努めて遵守すべき項目を以下に提示するものである.
- 患者の氏名,氏名でなくとも他の情報から個人を特定できるような入院番号,イニシャルまたは「呼び名」は記載しない.
- 患者の住所は記載しない.但し,疾患の発生場所が病態等に関与する場合は,必要と思われる区域までに限定して記載してよい(神奈川県,横浜市など).
- 日付は,臨床経過を知る上で必要となることが多い.個人が特定できない範囲で記載してよい.
- 診療科名は省略するか,おおまかな記述とする.
- 既に診断・治療を受けている場合は,他院名やその所在地は記述しない.
- 顔写真を提示する際には目を隠す.眼疾患の場合は,顔全体が分からないよう眼球のみの拡大写真とする.
- 症例を特定できる生検,剖検,画像情報に含まれる番号などは削除する.
- 以上の配慮をしても個人が特定化できてしまう可能性のある場合には,患者自身(または遺族か代理人,小児では保護者)から発表に関する同意を得るか倫理委員会の承認を得る.
- 遺伝性疾患やヒトゲノム・遺伝子解析を伴う症例報告では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(文部科学省,厚生労働省および経済産業省)(平成13年3月29日)による規定を遵守して,発表に関する同意を得る.