2025年11月

一般社団法人日本消化器外科学会 理事長 調   憲
データベース委員会 委員長 上野 秀樹
PRO小委員会 委員長 丸橋  繁

この度,National Clinical Database(NCD)に実装されているelectronic Patient Reported Outcomes(ePRO)システムの参加施設を拡大することとなり,日本消化器外科学会修練施設でもePROシステムをご利用いただくことができるようになりますのでご連絡いたします.

ePROシステムで何ができるのか?

患者QOL(Patient Reported Outcome, PRO)の把握
患者本人が回答するQOLを評価することができます.専用のアプリ,ソフトウェアは無料で使用することができます.また,データは従来の臨床データと同様にNCDに蓄積されます.

高齢者指標の自動計算
高齢者アウトカム(術後せん妄,退院時転倒リスク,ADL低下,身体機能低下,療養を要する退院)の予測発生率が自動算出され,医師,患者双方のアプリ/ソフトウェアで確認できます.協働的意思決定支援の補助となります.

患者データを利用したQOL解析が可能
自施設のデータであれば,臨床データとQOL評価を合わせたデータ解析が可能です.

患者中心医療(Patient-Centered Care)へのアプローチが可能
患者本人が回答するQOLを把握することにより,患者中心医療に近づきます.

*自施設以外のNCDデータを利用する場合や複数施設のデータを統合する場合は,日本消化器外科学会が公募するNCDデータを利用した消化器外科領域新規研究課題として承認される必要があります.

PRO/ePROについて

近年,周術期のアウトカムとしてQOLが重視されています.しかしながら,医療従事者が把握する患者さんの症状と患者さんが実際に感じている症状の間には乖離があると言われています.最近では,医療従事者の解釈を入れずに患者本人が直接行う健康評価の重要性が認識されつつあり,「患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome, PRO)」の名称のもと,様々な疾患でその評価が試みられています.特に,スマートフォンやタブレットなどでインターネットを経由して行うPROはelectronic PRO(ePRO)と呼ばれ,PRO/ePROを用いた研究報告が急速に増加しています.
NCDでは,患者さんご自身のスマートフォンやタブレットを用いて,周術期のQOLと関連する情報を患者さんに入力していただくePROシステムを実装しており,これまで限られた施設でパイロット的に運用を行って参りました.

ePROシステムの対象症例

現在,NCDに実装されているePROシステムの対象症例は,消化器外科主要7術式〔食道切除再建術,幽門側胃切除術,胃全摘術,結腸右半切除術,低位前方切除術,肝切除術(全ての肝切除術が含まれます),膵頭十二指腸切除術〕を受けられる65歳以上の患者さんとなります.

NCDのePROシステムについて

NCDのePROシステムには,①高齢者のリスクアセスメント機能(図1)と②ePRO収集機能(図2)が搭載されています.①高齢者のリスクアセスメント機能は術前の患者さんのデータを医師が入力するものであり,これにより高齢者に特有の術後アウトカム〔術後せん妄,身体機能低下,転倒,自宅以外への退院,日常生活動作(ADL)低下〕の予測発生率が算出されます.②ePRO収集機能では,患者さんが無料でダウンロードしたアプリを用いて,周術期のQOLに関する質問にご自身で回答していただきます.このデータはNCDサーバー内に蓄積され,担当医はNCD画面より閲覧することが可能です.
ePROシステムに実装されているQOL評価項目は,G8,EQ-5D,EORTC-QLQ-C30の項目です.評価するタイミングは,術前,術後30日,術後90日となっており,担当医は患者さんが自覚するQOLが周術期においてどのように変化したかを確認することができます.
ePROシステムで収集したQOL評価の一例を図3に提示します.
システムの詳細についてはマニュアルをご参照ください.
マニュアル(患者/家族用医療従事者用

図1:高齢者リスクアセスメント機能
術前のデータを入力すると高齢者アウトカムの予測発生率が算出されます.

図2:ePRO収集機能
患者さんが自身のモバイルでQOLに関わる質問に回答.医療従事者はNCD画面からこれを確認することができます.

図3:ePROシステムによる術後QOL評価の一例
EORTC-QLQ-C30では30個の質問の回答から,様々なQOLをスコアとして表示できます.包括的QOLや機能はスコアが高いほどQOLが良好であることを示します.一方で倦怠感や疼痛などの症状尺度ではスコアが高いほどQOLは悪いことを示します.
図3は,肝切除術を受けた症例の術後のQOLを高齢者と非高齢者で比較したものです.高齢者群では身体機能,役割機能,倦怠感,術後疼痛に関わるQOLが悪いことがわかります.

利用可能なデバイス

患者さんは,iPhone,iPad,Androidのモバイルでアプリの使用が可能です.フィーチャーフォン(キーパッドが物理的なボタンで構成されている携帯電話;通称「ガラケー」)ではご利用になれません.
医療従事者は,ネット接続可能なパソコン(Mac,Windows)でNCDにログインしていただくと利用できます(NCDのユーザーである必要があります).すべての機能を使うには,医師の権限が必要で,看護師やデータ入力補助者は閲覧のみ可能です.

アプリ使用の同意,免責事項

アプリを使用する際には,患者さん,医療従事者の双方に使用の同意が必要です.アプリ使用時に画面に表示される「同意して利用開始」のボタンを押すことで同意の表明となります.
また,本アプリは患者さんが担当医に直接連絡を取るものではありません.患者さんの体調不良時には,ご本人またはご家族が通常の方法で担当医にご連絡いただくことになります.
本アプリの利用に際して利用者に発生した損害については,運営管理者(NCD,日本消化器外科学会)は一切の責任を負いません.
アプリ規約

倫理審査

本アプリの利用,運用については,福島県立医科大学の倫理委員会で承認を得ています(一般2020-033).

登録データの知的財産権の帰属

登録データは,それ自体で患者個人が特定されることがないように匿名化された形で,NCD内に管理されたサーバーに保存されます.NCDでは各学会で定めた登録データも取り扱っていますが,本アプリでの登録データは既存の学会登録データとは別のサーバー内に保存されます.
なお,登録されたデータはこれまでのNCDデータと同様に日本消化器外科学会に帰属します.

データの利用

各施設のデータは,各施設で解析・利用することができます.他施設との統合データや全国データの使用に関しては,日本消化器外科学会が行う「NCDデータを利用した消化器外科領域新規課題の公募」に申請し,採択されれば可能となります.
ただし,データの公的発表を行う際には,それぞれのQOL評価(G8,EQ-5D,EORTC-QLQ-C30)の事務局に利用者が個別に許諾を得る必要があります.

G8:https://jcog.jp/org/committee/gsc/
EQ-5D:https://euroqol.org/information-and-support/euroqol-instruments/eq-5d-5l/
EORTC-QLQ-C30:https://qol.eortc.org/

ePROシステムの参加施設拡大,参加方法について

2022年7月より限定施設で試験運用を行って参りました.近年認知されつつある周術期QOL評価の重要性に鑑み,この度,参加施設が拡大されることとなります.
ePROシステムへの参加方法は,NCD画面にて施設/診療科単位で行います.各ご施設の診療科長がNCD画面にログインした際に本システムへの参加/不参加がポップアップに表示され,各施設のご回答をいただくシステムとなっております.主任医師,データマネージャーは回答することはできませんが,ご施設の回答がされるまでは主任医師,データマネージャーがNCDにアクセスした際に『ePROシステムの参加/不参加が未登録であり,診療科長による回答が必要です』というポップアップが表示されます.多くの施設のご参加をお待ちしております.