日本消化器外科学会理事長 調 憲
この度取りまとめられた,2026年の診療報酬改定案において消化器外科医への処遇改善の項目が盛り込まれましたので(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf,P67-P75),これまでの日本消化器外科学会の活動とともに会員の皆様にご報告いたします.
1.若者に選択される診療科を目指した自助努力
日本消化器外科学会では2024年1月末の臨時理事会において理事・監事全員のご意見を頂いた上で『消化器外科医の減少問題』に正面から取り組むことに決定しました.同年7月下関での79回総会で「消化器外科の明るい未来を達成するためのロードマップ」(https://www.jsgs.or.jp/wp/uploads/files/transformation/roadmap20240726.pdf)を発出し,働き方改革の好事例や時間外手術に対するインセンティブの情報発信,女性・若手消化器外科医の支援,医学生・初期研修医への広報,フレキシブルな国内留学制度の設立,ハラスメント対策など,学会の自助努力として考えうる多くの取組を開始しました.
2.消化器外科医の処遇改善に向けた広報活動
さらにこの問題は国民の理解なしには解決できないことから,「国民の皆様へ」(https://www.jsgs.or.jp/news/citizen/1914/)を公表しました.この文章はその後の私達の広報の基礎となり,新聞,テレビ等のマス・メディア等にも取り上げられ(https://www.jsgs.or.jp/media/mediapublication/),国民に広く知られることになりました.また,2025年5月10日には学会主催の市民公開講座「消化器外科医がいなくなる日~外科の危機から見える,私たちの医療の未来~」(https://www.jsgs.or.jp/mvel/)を開催し,多くの市民に参加をいただき,この問題の深刻さと消化器外科医の現状へのご理解を頂くとともに多くのメディアに取り上げていただきました.
3.厚生労働省の先生方との協調
「集約化による働き方改革の実現や患者さんの命に責任を負い,高度な手術技術を持つ,多忙な,多くの高度ながんの手術を行う消化器外科医に対する正当な評価を」,という私達の要望を令和6年10月,厚生労働省の検討会(第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44759.html)で発表させていただきました.またその後も,厚生労働省などと何度も折衝を繰り返した結果,12月の「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001363487.pdf)において,「必要とされる分野が若手医師から選ばれるための環境づくり等,処遇改善に向けた必要な支援を実施,外科医師が比較的長時間の労働に従事している等の業務負担への配慮・支援等の観点での手厚い評価について必要な議論を行う」という方針が示されました.また,令和7年3月の第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_55468.html)において消化器がんの手術を行う外科医が減少することを示し,その後厚生労働省において高齢化のすすむ2040年においてもがんの手術は5%程度しか減少しないこと,結果として集約化やタスクシフトが進まない前提であれば,少なくとも毎年900人の新たな成り手の確保が必要であり,現状の500人から追加で400人の確保が必要となることが試算・報告されました(https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001530217.pdf).これまで均てん化を目指してきたわが国のがん医療において,高度な医療に関する集約化への転換が議論され,方針として示されたものと理解をしております.昨年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に史上初めて,「減少傾向にある外科医師の支援」という言葉が入りました.
4.2026年度診療報酬改正について
今回の改定では,若手の医師が減少している診療科の医師に対する給与の手当とハイボリュームセンターで長時間高難度手術を行う外科医に対するインセンティブが認められました.この改定は診療科単位の処遇改善や医師個人へのインセンティブが盛り込まれた,史上初めての画期的なものです.この方針を施策として実現するために多くの関係者にお力をいただき,厚生労働省の関連諸課の先生方には消化器外科医の減少問題の解決に結びつく施策の実現に向けて全力で取り組んでいただいたと感じており,心から感謝を申し上げます.今回の改定は若手消化器外科医の増加に大きな力となることを確信しております.一方で,手術・処置の休日・時間外・深夜加算1の要件は,緩和はされたものの十分とは言えず,地域で救急医療に取り組んでいる消化器外科医等への更なる支援も必要と感じております.また,この改定は診療科偏在の対策として行われたものと理解していますが,今後「患者さんの命に責任を負い,高度な技術を持つ,多忙な,多くの高度な医療を行う医師に対する正当な評価」が他の診療科の医師にも広がっていくことを期待しています.その第一歩として新設された「外科医療確保特別加算」および「地域医療体制確保加算2」を病院に働きかけて,算定していただく必要があります.そして,これを糧に,一人でも多い若手医師が消化器外科を志望し,多くの患者さん達の命を救う未来を構築していきましょう.若手の消化器外科医を増やすという見地からは処遇改善以外の解決すべき課題は山積していると感じています.まずは,私達自身の意識改革が重要です.それを第一歩として将来「2026年がターニングポイントだった.」といえるように様々な取組を進めてまいりましょう.
今回,理事会の先生方や事務局の皆様には消化器外科医の減少に危機感を共有し,一丸となって様々な施策に多大なる貢献をしていただきました.私は行動を共にしていただいた理事会のメンバーを改めて誇らしく感じております.その他,多くの,多くの皆様にご理解とお力をいただきましたことに心から感謝と御礼を申し上げます.さらに私たちは未来に向かってできる限り今後も行動し,次世代の消化器外科医が幸福を感じられる持続可能な形でバトンを渡したいと思います.




