一般社団法人 日本消化器外科学会

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医師の働き方改革
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Last Update:2024年4月25日NEW

国民の皆様へ

地域における消化器外科の診療体制維持のために必要な待遇改善(インセンティブの導入など)について、
ご理解と後押しをお願いします

ワーク・イン・ライフ委員会
(文責:黒田慎太郎)

※インセンティブ:インセンティブとは、英語の「incentive(刺激・動機・誘因)」に由来し、ここではモチベーションを維持・増幅させるための外的刺激(評価制度)のことを意味します。

インデックス

消化器外科医の現状(取り巻く環境)

 消化器外科医は、主に腹部のがんや救急の疾患の診療に幅広く対応しています。がんでは食道がん、胃がん、大腸がん(結腸・直腸)などの消化管のがんや、肝がん、胆道がん、膵がんなどの肝胆膵のがんを担当しています。日本ではこれらのがんに年間40万人以上が罹患しています。消化器外科医は主に外科手術を行いますが、抗がん剤などの薬物療法や末期のがん患者さんの緩和ケアにも関わっています。日本全体のデータでは、食道、胃、結腸、肝臓、膵臓などの高度な手術が12万件以上行われており、これらの多く、特に難度の高い手術は消化器外科専門医によって行われています。また、しばしば腹膜炎を伴うような消化管の穿孔(やぶれること)、腸の壊死、腸閉塞、急性虫垂炎、胆嚢炎をはじめとした腹部の救急疾患にも対応しています。
 しかし、厚生労働省の「主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数」のデータから推移をみると、約20年前の2002年と比較して、2022年の消化器・一般外科医師数は2割以上減っていることが分かります。これは、医師の総数が20年間で3割以上増えている中での推移であり、そして消化器外科医の業務量が以前と比べ格段と増えてきている中での状況でもあります。他の診療科と比較すると、内科系診療科や、同じく外科系である呼吸器外科、心臓血管外科、泌尿器科、産婦人科などは幅はあるものの一律に増加傾向なのに対し、消化器・一般外科は唯一減少している診療科です。この事実は、消化器・一般外科の業務がとりわけ負担が大きく、診療科の選択として敬遠されてきたことを示しています。(図1)

図1 厚生労働省「主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数」より本学会が作成した診療科別医師数推移グラフ

 そして、日本消化器外科学会の会員数もまた、毎年減少傾向にあります(図2)。年間1,000名を超えていた新入会員数は1997年には1,000名を割り込み、現在では毎年400~600名を推移しています。入会者が多かった1990年以前の入会者は60歳を超えているため、その比率を増しており、日本消化器外科学会の会員年齢分布は60歳台にピークがあるわけです。

図2 日本消化器外科学会の会員数の推移

 従って、この先10年間は年齢分布多くを占める会員が65歳を超えていきますので、消化器外科診療の中心をなすと考えられる65歳未満の消化器外科医は急速に減少していくことが予測されます。図3は、近年の平均入会者数、平均退会者数、定年となり現場を離れる65歳になる人数から算出した、65歳以下の消化器外科医の予測される人数です。消化器外科医の数は10年後には現在の4分の3に、20年後には現在の半分にまで減少することになります。もちろん、学会としては会員数を維持するための制度改革などを積極的に行っており、なんとか減少のスピードを抑えるよう努力をしております。

図3 日本消化器外科学会 65歳以下会員数 今後の予測
 また今回、他外科系学会の会員数との比較をするために行った調査では、他外科系学会の多くで会員数が増加する中、日本消化器外科学会の会員数は2000年と比べて2020年では1割も減少していることが分かりました。(図4)

図4 外科系学会の会員数の推移グラフ

 また更に、これまで莫大な時間外労働によって支えられてきた消化器外科診療は、2024年4月からの時間外労働上限規制(医師の働き方改革)により、診療に制限が生じる可能性があるなど、更に難しい状況が生まれてきます。

消化器外科医の業務内容

 消化器外科の業務は、患者さんの手術だけでなく、術前検査や説明、また、術後患者さんの全身管理や合併症の対応なども含まれます。また、退院後の外来診療や、抗がん剤など薬物療法、がん患者さんの緩和ケアなども重要な業務であり、救急患者さんの受け入れや緊急手術なども含まれ、他の診療科に比較すると業務が多岐にわたります。また、他の診療科と比べて生命に直結する疾患も多く、その管理には多くの時間と人手が掛かります。
 特に地域の病院では、抗がん剤の治療を専門とする医師や緩和ケアを専門とする医師の数は限られており、消化器外科医が引き続き対応を担っていくことが求められています。さらに、内視鏡検査、コロナ対応などの感染部門、全身麻酔などまで、消化器外科医が担当していることがあります。病院の経営に消化器外科医は大きく貢献しており、消化器外科医がいなくなれば立ち行かなくなる病院が出てきて、地域の医療に深刻な影響がもたらされることが懸念されます。
 また、消化器外科手術では患者さんの負担を軽くするための内視鏡手術やロボット手術も導入され、高度化、長時間化しつつあります。すべて、この国の患者さんに対してよりよい医療を提供するためですが、医師一人一人に対する身体的負担・精神的負担は確実に増加し、時間外労働も増えます。
 特に大学病院等の研究や学生教育が重要な仕事である施設では、このような高度な診療の提供に加えて、学生や研修医・若手医師への教育や、臨床研究や基礎研究、学会発表の準備や論文作成、自己の手術のトレーニングなどの負担も加わり、まさに席を温める暇もないばかりか、寝る間もないほどの忙しさです。
 そして、この状況に消化器外科を志望する医学生・研修医は減少し、忙しさに拍車がかかるという悪循環となっています。また、途中で消化器外科をやめてしまい、他の診療科に転身してしまう医師も大変増えています。(図5)(わが国では診療科の選択は、医師の自由意思であり定員などはありません。労働条件の厳しい診療科は、例え世の中にとって欠かすことのできない業種であっても、自然と人員が減少します。)

図5 消化器外科の業務は多岐にわたり、負担も大きい

 早朝から出勤し、また、夜間に及ぶ長時間手術や、深夜の緊急手術の呼び出し、休日の術後患者さんの管理など、患者さんにとっては当たり前と思われていることですが、実は、多くの消化器外科医の患者さんの命を守るという使命感と責任を果たすための献身によって支えられています。
 一般にはあまり知られていないかもしれませんが、いくら病院で多忙を極めても、高度な医療を提供しても、わが国では基本的に診療科によって給与の差はありません。消化器外科医も同様です。どれだけたくさんの患者さんの生命を救う仕事をし、病院内で実績を上げても、残念ながらほとんどの病院では特別な手当てがある訳ではありません。諸外国では認められている医師への技術料などは、わが国では一切ないのが現状です。今までは長時間労働の結果生じる超過勤務手当によって他科の医師に比べ収入が多かった面はあるかもしれませんが、特別な手当があるわけではありません。国から病院に支払われる診療報酬上、難度の高い手術の点数は大幅に高くなっていますが、多くの病院が経営に苦慮している中、病院の収益増が消化器外科医の手元に届くことはありません。
 また、特に大学病院に勤める医師は、一般病院に勤める医師に比べ給与水準が極めて安く、近隣の病院の支援(外勤、つまりアルバイト)に行くことで、なんとか大学病院の低い給与を補っています。ただし、消化器外科医の場合は、前述のように平日の時間内は非常に多忙なため、夜間の休息時間や、休日の家族と過ごす時間を削って、自身の健康や、プライベートを犠牲にして働いている消化器外科医がほとんどです。
 今回の「医師の働き方改革」では外勤も労働時間に含められることから、収入減を心配する医師も見られます。やはり、本来の大学病院の医師の給与をせめて一般病院なみにすることと、消化器外科医の本業である手術に関して技術を評価する仕組みが必要と考えます。このことは患者さんの救命のために患者さんの身体に侵襲(ダメージ)を加える処置を行っている、消化器外科以外の診療科にも共通する課題のように感じられます。
 また、これは消化器外科医に限ったことではありませんが、医師の学会や研修・トレーニングのための出張費や、学会会費・参加費などについては、一部を除き多くの場合、医療機関から支出されることはありません。科研費などの国からの研究費より、それらを捻出できる医師もいますが、多くは自己研鑽の名の元、医師の個人負担となっています。そのため、出張費などの諸経費を賄うために外勤(アルバイト)に行く、という意味合いもあります。

消化器外科学会会員に対するアンケート結果と、今後の予想される状況

 この度、本学会会員(消化器外科医)に対して行われたアンケート調査では、後輩に消化器外科医の道を勧めるという回答が38%、自分の子供(など身近な存在)に消化器外科医の道を勧めるという回答がわずか14%、という驚くべき結果が返ってきました。(引用文献)消化器外科医たちが、「患者さんの生命を救う」という使命感で、昼夜問わず頑張っていることに対して、「何も報われない、認められない」と感じていることが、このような結果につながったのではないかと思われます。(図6)

図6 後輩に消化器外科医になることを勧めるか/自分の子供に消化器外科医になることを勧めるか

 多くの国民が罹患する可能性のある生命に直結するがんや腹膜炎、腸閉塞などの疾患に対する消化器外科診療は、国民の皆さんが安全・安心に生活するために、欠かすことのできないものであります。本来消化器外科はメスの力で患者さんの生命を直接救うことができるため大変やり甲斐があり、全身管理から高難度の手術までできる魅力的な仕事です。それにも関わらず消化器外科医の不足が深刻化している現在の状況を改善しないと、将来にわたり国民の皆さんに本来提供されるべき医療サービスに大きな支障をきたすことが懸念されます。
 社会全体の価値観も変わりました。使命感ややりがいに基づいた奉仕の精神だけでは次世代の消化器外科の担い手を増やすことは難しいと感じます。元来、わが国では「医師は収入をはじめとした待遇のことを言うべきではない」という伝統の下、医師が声を上げることは憚られる雰囲気がありました。ただ、「沈黙は金」では、益々状況は悪くなる一方に思えます。「働き方改革」が導入される中、人員不足の悪循環が放置されれば、さらに医師の診療科偏在が助長されるのではないかと危惧しています。
 この状況が続くと、近い将来(早ければ10年以内にも)、地域における消化器外科の診療体制の維持が困難になります。具体的には、胃がんや大腸がんなどの消化器がんの手術が、消化器外科医不足のためにすぐに行うことができなくなります。また、頻度や緊急度の高い消化器外科疾患(腹膜炎、腸閉塞など)についての、夜間の救急車の受け入れが難しくなり、各々の病院で即座に治療ができない可能性が生まれやすくなります。場合によっては生命に直結する問題も起こり得ます。また、夜間や緊急の手術以外でも、地域の病院で診療や手術が受けられなくなることや、がんの患者さんでは手術を受けるとしても数ヶ月待ちの状況が生まれかねません。がんは時間が経つと進行していきますから、本来切除が可能だったはずの、がんの手術ができなくなることが懸念されます。(図7)わが国では、この消化器外科医不足に対して、今すぐにでも改善のための対策を行わなくてはならない、危機的な状況であると言えます。

図7 消化器外科医不足に対して、今すぐにでも改善のための対策を行わなくてはならない

考えられ得る対策

 現在の消化器外科医を取り巻く状況には、消化器外科医(や学会)の努力で改善できる部分(①業務体制の改善、タスクシフト)と、国民の皆さんのご理解や、世論の後押しがないと進まない部分(②インセンティブの導入)があります。以下に順に説明をしてまいります。

 ①業務体制の改善、タスクシフト 

 消化器外科医(や学会)の努力で改善できる部分としては、何より業務の効率化です。これまで、消化器外科医が比較的多かった時代には、患者さん一人一人に固定の主治医がいました(「主治医制」)。主治医は、患者さんの状況に対して、365日24時間、昼夜を問わず責任をもって対応してきました。しかし、医師も一人の人間として、身体を休めて疲労の解消に努めることや、業務から離れて心を休めリフレッシュする時間を持つ必要があります。また、男女共同参画の考え方からも、家庭・子育てへの参加も大切なことです。
 人員不足も相まって、最近ではより効率性を高めた診療体制である「チーム制・複数主治医制」を導入する施設が増えてきました。患者さん一人一人に複数の医師が関与することにより、医師としては交代で休養を取ることができますし、患者さんにとっては、複数の医師の目で病態を見ることにより、見落としが減るなどのメリットもあります。医師間での情報共有や治療方針の検討などには、情報通信技術(ICT)を活用する動きもあり、無駄な時間を可能な限り削減し、効率的な働き方を目指しています。
 また、必要性の低い業務を減らしたり、カンファレンスの時間を短縮したりすることで、始業時間や終業時間を見直し、2024年4月から開始された「医師の働き方改革」にも対応できるよう努力しています。ただし、しばしば長時間に及ぶ手術が主たる業務の消化器外科医にとって、診療の質や量を落とすことなく労働時間を短縮し、働き方改革を実現することはそう簡単ではありません。複数のチームが診療科に存在する場合は交代もしやすいのですが、人員の不足によってそのような形がとれない消化器外科は多く存在します。
 また、国は医療事務員の充実や看護師さんやその他のスタッフの業務拡大によるタスクシフトを行うことで医師の負担軽減を図ることを推奨しています。しかしながら、特に地方では医療事務員や医師以外のスタッフ自体も人員不足に陥っている現状があり、タスクシフトが十分に進んでいないことも心配です。
 学会では消化器外科医に対するタスクシフトの在り方を検討し、提案して参ります。また、若手消化器外科医を対象にセミナーなどの学び場を多く提供し、なるべく早く消化器外科医として自立できるよう支援する活動を行っています。また、研修医の皆さんにもセミナーや広報を通じて消化器外科の魅力を伝える努力をしています。

 ②インセンティブの導入 

 一方で、わたし達、消化器外科医(や学会)の努力のみでは改善が難しく、国民の皆さんのご理解や、世論の後押しがないと進まない部分もあります。チーム医療の推進によって、患者さんの対応を消化器外科医が交代で行うこともあるかと思います。また、夜間・休日の必要性の低い受診を控えてもらうことや、時間外・休日の病状説明をお断りさせていただくことなども、何卒ご理解をいただきたいと思います。しかしながら、なにより難しいのは、消化器外科医の待遇改善です。
 まず、消化器外科医師に対する、インセンティブの付与以前に、一部の医療機関では、実際の残業時間が規制時間を越え、また、その残業代も正当に支払われていない実態もあるようです。2024年からはじまる「医師の働き方改革」では、医師の労働環境を明るみに出し、規制の時間内に労働時間を収め、医師の健康の確保と、医療の質の維持が目的とされています。各医療機関において、消化器外科医師の健康を守り、また、労働に対する正当な対価が与えられるよう願います。
 そして、先にもアンケート結果として述べましたが、他診療科と比較しても、生命に直結するがんなどの疾患や、腹膜炎や腸閉塞など緊急の疾患に対応するため、責任や負担が大きいにもかかわらず、画一的な評価や給与体系により、多くの消化器外科医は報われていないと感じています。本来、消化器外科は高度な手術技術によって多くの患者さんから感謝される魅力あふれる診療科です。医学生・研修医の皆さんが消化器外科医を目指すような、「責任や負担の大きさに見合った適正な報酬が得られる」、消化器外科医の待遇改善/インセンティブの付与について、ぜひ、国民の皆様のご理解と、世論の後押しをお願いいたします。

 

  • 緊急手術に対するインセンティブ

     休日・深夜・時間外の緊急手術に対しては、国も大きな後押しをしてくれており、保険診療上、一定の加算が付くことになっています。ただし、以下の条件を満たした場合は、さらに多くの手術点数への加算が付くことになり、病院にとって大きな収入源となります(休日・深夜・時間外加算1の取得)。その条件とは、①診療科の医師が予定手術の前日にしっかり休養を取れるシフトを組むこと(緊急手術の呼び出し当番を外すなど)、②緊急手術に参加した医師に十分なインセンティブを付ける給与体系を組むこと、です。
     ただし、多くは病院収入増(や赤字補填)の目的として使用されたりすることがあり、緊急手術に参加する消化器外科医に対するインセンティブに必ずしも結び付いていない現状があります。これは、深夜などに呼び出しを受け、緊急手術を行うという非常に負荷の大きい労働に対して、正当な対価が支払われていないことを意味します。この問題を解決すべく、日本消化器外科学会としては、緊急声明を出し、診療機関、病院などへの理解に努めています。引用文献
     
  • 予定手術に対するインセンティブ

     緊急手術のみならず、消化器外科の予定手術は大変に負荷の大きいものです。消化器におけるがん(食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆管がん、膵臓がんなど)に対する手術など、他診療科と比べて、生命に関わる疾患も多く、その管理には多くの時間と人手が掛かります。消化器の疾患は、食事を食べられないことに直結することが多く、全身状態の管理も難しいことが多いです。さらに、高齢化や併存疾患を持つ患者さんの増加などにより、手術や術後管理のリスクも上昇しています。
     消化器外科手術では内視鏡手術やロボット手術も導入され、高度化、長時間化しつつあります。すべて、この国の患者さんに対してよりよい医療を提供するためですが、医師一人一人に対する負担は確実に増加し、時間外労働も増えます。国による診療報酬改定により、高難度手術の点数は大幅に高く改訂されていますが、残念ながら、この点数の増加は病院の収益になっているだけで、これが消化器外科医の手元に届くことはありません。
     一人前の消化器外科医を育成するには、長い年月にわたる教育と、鍛錬を要します。そして、その血の滲むような努力の結晶である手術手技に関しては、特別なインセンティブが付与されるべきですが、残念ながら現在のところこれに利用可能な制度はなく、ごく一部の理解のある医療機関を除き、予定手術に対するインセンティブを付与する動きはありません。
     欧米などでは、生命に直結する高い手術手技に対する対価が、市場の原理で設定されますが、日本では画一的な評価からそれが非常に低く抑えられており、消化器外科医の使命感と献身によってのみ支えられているのが現状です。
     時代は替わりつつあり、報われないと分かっている診療科を選択する医学生・研修医は激減しつつあります。私たちは、国民の皆様のご理解と、世論の後押しをいただいて、高い手術手技に対する適正な対価が与えられるような制度が作られ、身体的負担・精神的負担の大きな消化器外科医が守られる当たり前の世の中になることを望みます。また、制度がすぐに確立されずとも、各医療機関が率先して消化器外科医に対して、適正な対価を与えるよう努力することを望みます。
     
  • 基本給与の向上

     現在、医師全体で見ると一般の企業と比べても十分な収入が保証されているように見えます。しかしその内訳は制度による歪みもあり、平均収入が高額な開業医師や自由診療の医師(美容医療など)と比較して、勤務医の給与はその業務内容に比べ非常に低く設定されており、大学病院の医師は更に低く設定されています。また、全診療科に対して画一的な評価のもと、消化器外科に対する給与も、負荷の大きさに比べて大変にバランスの悪いものとなっています。
     消化器外科分野の疾患は、生命維持の基本である食事の摂取に関わることから、容易に全身状態の悪化に直結します。その業務は手術以外にも、外来診療、抗がん剤などの化学療法、手術が必要な患者さんの術前検査や説明、術後患者さんの全身管理、合併症への対応、退院後のフォローアップ、末期がんの患者さんの緩和ケアなど、多岐にわたります。
     他診療科と比べて、生命に直結する疾患も多く、その管理には多くの時間と人手が掛かります。さらに、消化器疾患の患者さんの数自体も大変多いという現状があります。一般に、消化器外科は病院の売り上げに対する貢献度も高く、その身体的負担・精神的負担も大変大きいものになります。現状の業務内容による負担に対する給与としては、非常にバランスが悪く、多くの若手医師(研修医)の目からは、「コストパフォーマンス」、「タイムパフォーマンス」が悪いと映るようです。そのため、給与が同じであれば、比較的負担が少なく、時間外や休日のプライベート時間がしっかり確保できる診療科が選択される傾向が全国的にあります。これは、消化器外科医の業務が正しく評価されず報われていないことを示す、客観的な事実になります。
     地域における消化器外科の診療体制の維持は、わが国のインフラや安全保障体制の維持とも言えます。消化器外科の人員が激減している現在、医療崩壊を食い止めるためにも、やはり、国民の皆様のご理解と、世論の後押しをいただいて、責任と負担の大きさに対して適正な対価が与えられる、当たり前の世の中になることを願います。


(引用文献)
1. ワーク・イン・ライフ委員会アンケート結果報告(医師の働き⽅改⾰を⽬前にした消化器外科医の現状)及び理事長より会員の皆様へ
 https://www.jsgs.or.jp/modules/oshirase/index.php?content_id=405

2. 医師の健康と医療の質を担保するためのドクターインセンティブ:日本消化器外科学会としての提言
 https://www.jsgs.or.jp/modules/oshirase/index.php?content_id=328

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